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自死を食い止める第一歩は「最近どう?」。社会とのつながりを保つことが孤立を防ぐ

今年に入ってから芸能人の自死が相次いでいるが、もはや芸能界だけの問題ではない。厚生労働省と警察庁の調査によると、2020年8月に全国で自死した人は合わせて1849人。昨年同月と比べて246人増え、今年の月別でも最多だという。さらに、新型コロナウイルス関連で倒産した企業や個人事業主は、10月1日時点で571件に及ぶ。雇い止めになり、未だに職が見つからない人や、希望が見えず苦しんでいる人も少なくない。

「以前から全国の自殺対策を行う団体の間では、8月以降に新型コロナウイルスの影響が大きく出るだろうと予想していました。なかなか人に会えないという状況が半年間続き、もともと人との接点が少なかったり、孤立していた人は、ますます孤立しているのではないでしょうか」と日本バプテスト教会連合・白浜バプテスト基督教会(和歌山県白浜町)の牧師・藤藪庸一さんは語る。

藤藪さんは牧師をしながら、南紀白浜の景勝地・三段壁(さんだんべき)を訪れる自死志願者を助け、支援する活動を行っている。今年に入ってから相談件数は圧倒的に増えており、コロナ不況により仕事を失った夫婦や、ようやく始まった学校に通いはじめたが、なじめずに悩む学生など、コロナ関連の相談も多いという。

「自死を防ぐために即効性のある策はない」と言う一方で、知人や家族など身近な人と意識的につながることがセーフティーネットを広げるきっかけになると藤藪さんは訴える。

「現代には、直接会えなくてもつながる方法がたくさんあります。「最近どう?」とか「元気?」とか、そんな些細なことでいいんです。LINEのスタンプひとつでもいい。ぜひ気になる人に声をかけてみてください。SNSの“いいね!”ひとつでも、気分が上向きに変わる時代です。よりリアルに近いやりとりを通して「この人は、自分のことを覚えていてくれるんだな」とお互いに思えたら、それだけで気持ちが前向きになる。そういうかかわり方を持つことが大切なんじゃないかなと思います」

藤藪さんの愛犬・ジロウ君。愛嬌のある表情に思わず頬が緩む

実は藤藪さんは、7月に盲腸破裂と腹膜炎で入院・手術後、腹膜偽粘液腫という病気が発覚し、闘病中である。年間で100万人に1人という症例の少ない病気で、治療法が確立されていない中、2度目の手術を控えている。

「いま、僕のところには15人ほど自立を目指している人たちがいるのですが、僕が病気になったことで一気にみんなが不安定になってしまったんです。心の支えや、頼りにしている存在が揺らぐと、大人でも大きな影響を受けるんですね。僕がいまできるのは、一人ひとりに声をかけることだけです」

いまこれを書いている筆者も、コロナ不況のあおりを受けたひとりだ。決まっていた仕事がほとんどキャンセルになり、先の見通しが立たない不安の中で、唯一の救いとなったのは、家族や友人の存在だった。ただ黙って話を聞き、一緒に祈ってくれた人、食べ物を差し入れてくれた人、金銭的援助を申し出てくれた人・・・。自分を気にかけてくれる人がいる、と心で感じられることが、こんなにも力強い励ましになるのかと実感し、感謝する日々だった。

知人に、仲間に、家族に、声をかける。「なんだ、そんなこと」と思うかもしれない。面倒くさいと感じる人もいるだろう。でも、そんな些細なことが、もう何もかもどうなってもいいとさえ思っていた人の心をつなぎとめるきっかけになることが、確かにあるのだ。

藤藪さんは私たちに投げかける。

「何か問題が起こると、私たちは国や行政に対して『何とかしてほしい』と訴えがちですが、行政はみんなに対して同じように制度を作ることしかできません。そうしなければ、どこかから必ず『不公平だ』という声が出てしまうから。むしろ、僕らが先に立って何かを始めることで、それを見た行政が刺激を受けて視察に来たり、自分たちの街でできることを考えようという動きが出てきます。今の状況を本当に何とかしたいと思うなら、まずは身近な人に手を差し伸べることから、はじめてみませんか」

 

藤藪庸一さん

藤藪庸一(ふじやぶ・よういち)

1999年に白浜バプテスト基督教会の牧師に就任。先代の江見太郎牧師より「いのちの電話」を引き継ぎ、NPO法人・白浜レスキュー・ネットワークを設立。自殺志願者に寄り添い、自立を支援する活動を行っている。著書に『あなたを諦めない──自殺救済の現場から』(いのちのことば社)。2019年にはドキュメンタリー映画「牧師といのちの崖」(加瀬澤充監督)が公開された。

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