【発達障害クリスチャンのつぶやき】 一度に複数のことをこなす「マルチタスク」が苦手な理由

4年前、発達障害との診断がくだりました。診断は「ADHDの傾向のある発達障害」でしたが、この4年間、自分で自分を厳しく観察してきた結果、私はADHDというよりも、ASDであるという自己認識に至っております。この4年間、自分で自分を見つめてきて、また周囲から叱責されることで、自分自身を分析的に見ることができるようになってきました。

まず、「ワーキングメモリ」の話をしなければなりません。脳の容量、短期記憶のキャパシティのことです。私が同時に複数のことができないのは、ワーキングメモリが小さいからだとわかってきました。たとえば、私は、部屋の電気のつけっぱなし、冷暖房のつけっぱなしを、よく、やらかしてしまいます。これは典型的な話で、部屋に入って用事をするとき、「その用事が終わったら電気を消す」ということが、頭から抜け落ちているのです。これは、脳の容量が小さいことからくる典型的な症状です。ワーキングメモリの小ささによる障害は、日常のあちこちに現れるもので、私が、パソコンに向かっていると、受付に人が来ても気が付かないとか、受付に気を配っていると手元の仕事がはかどらない、というのもその一例です。

私の字がきたないのも、これに起因しています。幼少のころから何度も注意されながら一向に直らず、ひんぱんに上司から注意されます。実際問題として、紙に字を書く書類で、「7」と「9」を読み間違ったらたいへんです。しかし、私は44歳にして自分の字がなぜきたないか、理由をはっきり認識しました。実は「字を書く」という作業は、同時に複数のことをやっています。つまり、「頭の中で文面を考える」ということと、「手を動かして字を書く」ということの二つです。これを同時にやろうとすることで、私の脳はもうパンクするのです。しかも「頭で考える」ことと「手で字を書く」ということは、テンポ感がまったく違います。この違いで私の脳は混乱し、しばしば私は頭で考えるテンポで、字を書いてしまいます。すなわち、字を書くテンポが速すぎて、どうしても、きたない字になってしまうのです。これがようやく理解できました。

他にも、ワーキングメモリが小さいことによる実害の例があります。たとえば、教師だった時代、なにかの説明をしながら、生徒のほうを見るのは極めて苦手でした。なにかを説明しているときは、聴衆は大きな盲点に入っているかのようです。うなずいて聞いている人もわからないのみならず、目の前で寝ている生徒にも気が付かず、私語をしている生徒にも気が付かず、将棋をしている生徒にも気が付きません。必然的に私の授業は2カ月で学級崩壊を起こします。30代の10年間、苦しみながら教員をし続け、ついに教員をやめさせられました。私は、「授業」を行うことが極めて苦手です。

また、司書をしていた時期もありましたが、デスクワークをしながらカウンターに人が来たらサッと対応するのは極めて苦手です。デスクワークをしていればカウンターに人が来ても気づくのが遅く、またカウンターに人が来ることに神経を使うと、デスクワークが手につきません。同じように、仕事をしながら、電話が鳴ったらパッと出ることも苦手です。飲み会などで、おしゃべりをしながらコップの空いた人にビールをつぐのも極めて苦手です。運転もほとんどできません。運転は、前を見ながら、後ろも見ながら、左も見なければならないからです。

発達障害の人に多くみられる、電気のつけっぱなし、ドアのあけっぱなし、という傾向は、私にも顕著で、幼いころから現在にいたるまで、あらゆる人に叱責を受けていますが、これも同時に複数のことをするのが苦手であることと関連があります。私の「○○っぱなし」は、ほとんどこれが原因です。同じような理由で、物を元あったところに戻すことも苦手です。使っている間に、それが本来どこにあったかを覚えていることが苦手なのです。こうして、部屋はどんどん散らかっていくと考えられます。

効率が悪い、要領が悪い、なにをやらせても極端に遅い、ということも、同時に複数のことをすることが苦手であることと関連があります。たとえば、3階から1階におりて、いくつかの用をこなして、ふたたび3階に戻る場合ですが、私は、これは極めて苦手です。同時に複数のことをすることを要求されているからです。一度にひとつのことしかできないのです。部屋の片づけも、一回にひとつのものを戻すことしかできないため、極めて効率の悪い片づけになります。片づけるスピードより、散らかるスピードのほうがずっと速いので、部屋はどんどん散らかります。

職場で、すごく簡単なチェックを任されることがあります。「この書類の、ここと、ここと、ここだけ、チェックしてください」。これは、多くの人にとって、とてもやさしい仕事のようですが、私にとってこれは、「同時に三つのこと(3カ所のチェック)をしている」というマルチタスクで、私には極めて苦手な仕事です。多くの人のかかる時間の、何倍もの時間がかかってしまいます(しかもミスが多い)。

仕事というのは、そもそも、いろいろな仕事を同時進行で行うことが多いものです。つまり、仕事自体がマルチタスクで、しかも、その仕事の一つひとつをとっても、じつはマルチタスクの要素は強くあります。私は、多くの人が1時間で終わる仕事を、8時間くらいかけてようやくこなしています。ですから、ひんぱんに「(給料)いくらもらっていると思っているんだ!」という叱責を受けます。非常につらいことです。

腹ぺこ 発達障害の当事者。偶然に偶然が重なってプロテスタント教会で洗礼を受ける。東京大学大学院博士課程単位取得退学。クラシック音楽オタク。好きな言葉は「見ないで信じる者は幸いである」。

 






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