【夕暮れに、なお光あり】 丸い背 渡辺正男 2020年7月1日

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 3年前、80の大台に乗った時に、親しい方から、「アラ傘の仲間にようこそ」と声を掛けられました。「傘寿」という言葉から、80代を「アラ傘」と呼ぶのだそうです。

 「アラ傘」の仲間に加わった頃から、気力体力の衰えを意識するようになりました。年相応にあちこちにガタがきて、不自由も増してきています。でも、もう少しがんばろうよ、と自分に言い聞かせて、早朝のウオーキングを日課にしています。

 息子が万歩計を贈ってくれました。歩数だけでなく、消費カロリーなどいろいろ計測のできる優れものです。それをポケットに入れて1時間弱、人目をはばからず腕を振って歩くのです。

 ある日、お店の大きなウインドーに、まるい背の、少し腰の曲がった人が映っていました。よくよくなじみのある老人です。どこか過信している自らの実像を、目の当たりにした瞬間でした。

 数日後、連れ合いが新聞を見ながらニヤニヤしている。「どうしたの」と聞くと、「この短歌気に入った」と、歌壇欄を指さしたのです。こういう一首です。

「夕暮れの 師走の道を 丸き背で 夫の顔持つ じいさんが行く」

 よくできた一首ですね。

 桑野博利という画家がいました。人の背について、こう書いています。岩波書店の「図書」という雑誌で目にした文章の一節です。

 「人の背の持つ表情は、顔と変わらないくらい百人百様で、興味尽きない。やさしい背、神経質な背、確信のある背、傲慢な背、それぞれ微妙なニュアンスをもっている。顔には、その人の今が出ているが、背には現在までに至るその人の歴史がにじんでいる」

 特に最後の一文は心に残っています。顔は取り繕うことができるけれど、人の背は正直ですね。

 自分のみすぼらしい背に、一体どんな歴史がにじんでいるのだろうと、なんだか情けない気持ちになります。でも、仕方ありません。

 そう言えば、主イエスの背も偉丈夫のそれではありませんね。鞭打たれ、血のにじんだ背であったでしょう。

 その主イエスの弟子の端に加えられて長年生きてきました。ですから、貧相な背でよいのではないか――そう居直るように、自分に言い聞かせているこの頃です。

「われらにおのが日を数えることを教えて、知恵の心を得させてください」(詩篇90:12=口語訳)

 わたなべ・まさお 1937年甲府市生まれ。国際基督教大学中退。農村伝道神学校、南インド合同神学大学卒業。プリンストン神学校修了。農村伝道神学校教師、日本基督教団玉川教会函館教会、国分寺教会、青森戸山教会、南房教会の牧師を経て、2009年引退。以来、ハンセン病療養所多磨全生園の秋津教会と引退牧師夫妻のホーム「にじのいえ信愛荘」の礼拝説教を定期的に担当している。著書に『新たな旅立ちに向かう』『祈り――こころを高くあげよう』(いずれも日本キリスト教団出版局)、『老いて聖書に聴く』(キリスト新聞社)、『旅装を整える――渡辺正男説教集』(私家版)ほか。

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