【日本人のみたキリスト教「今昔」】第4回 「自分の足で歩め」歴史学者・笠原一男 2020年7月30日

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 オリエンス宗教研究所は、1948年以来、カトリック修道会「淳心会(1862年創立スクート会)」が運営する研究・出版団体である。『共同訳聖書』発行で活躍した。またミサの手引き「聖書と典礼」の発行元として知る人もあるだろう。

 本連載は、同所発行の鈴木範久/ヨゼフ・J・スパー共編『日本人のみたキリスト教』(同所、1968年)を手がかりに、社会にある教会の「今昔」を問う。本書の前半部分で、1968年、著名な学者12人が以下四つの質問に答えている。

1.今までに日本のキリスト教とどのような関係があったか?
2.キリスト教が日本社会で果たしている役割とは?
3.日本でのキリスト教低迷の原因とは?
4.今後、日本のキリスト教の課題は?

 半世紀以上前に語られた「外側からみた日本のキリスト教」という提言、またそれに伴う問いかけに、いま次世代の教会はどのように答えられるだろうか。

第4回 歴史学者・笠原一男(1916~2006年)

 笠原一男は、鎌倉仏教の専門家である。また創価学会や立正佼成会などの「新宗教」研究も行い、東京大学、放送大学などで講じた。「今後真宗史学が発展するための基本的な課題を著述全体で表明し、ともすれば抽象論や単なる思弁に流される方法論的課題を浮き彫りにした」と笠原を評したのは、仏教史学者・北西弘(1925-2019/大谷大学・元学長)である。

 「1.キリスト教との関係」について、笠原は述懐する。「生まれたのは長野県の飯田の近くで、家の宗教は念仏でした。そのあたりでは、当時まだキリスト教の伝道は石を投げつけられるような状態のなかでなされていた……日曜学校に出席してきれいなカードを貰った……キリスト教との接触はそれだけ」

 「キリスト教との接触が、わずかに小学校のころの記憶にあるのみで、その後全然ないことよりみてキリスト教は一体伝道ということをなしているのか疑わざるを得ません」

 「2.キリスト教が日本で果した役割」については「欧米文化の無料販売所としての役割以外は何も果していないのではないか」と辛口だ。語学、留学の機会、異性との出会いを求める場としてはよいが「宗教本来の役割は何も果していない」。

 「宗教本来の役割は、民衆の悩みの救済であり、救われた個人はそれによって他の人間をも救うという形で、伝道が必然的になされる」のにもかかわらず、伝道が進んでいない。

 それゆえ「キリスト教の信者自体が質の上でも宗教本来の信者でない」「功利的な意味でしかキリスト教に惹かれないことも、このような信者を産み出している原因」だと断じる。

 さらに「キリスト教は、民衆の救済という意味では、今日の日本でほとんど宗教本来の役割を果たしていない」と辛辣な評価を下している。

 では、そんなキリスト教の「3.低迷の原因」は何なのか。

 笠原によれば、日本の宗教として独立・自活できていないことが原因だ。占領時代より、キリスト教は欧米の「ひもつき」であり、「伝道者の意識の上で、民衆の側に立つのでなく、欧米に目標をおいて、そこまで引き上げるという態度」がみられる。

 戦後「憲法20条」によって信教の自由が認められ、神道も仏教も新興宗教も同じスタートラインに立ち、独立・自活を始めたのに、「精神的にも経済的にもいまだひもつきであることは、キリスト教がまだ憲法第20条以前であることを示している」。

 「悩める民衆がふたたびひとり立ちして、新しい生活を送れるようになる」ために、「絶えず宗教改革があってよい」はずだ。しかし「数百年前のキリスト教の形態が、そのまま日本と、この急変する時代に持ち込まれているようでは、伸び悩みになるのも不思議はありません」

 笠原によれば「宗教の生命は、時代のたそがれに現れるのではなく、時代の先端に、民衆の悩みを先取りして現われ」、それは場合によっては「異端」とも呼ばれた。しかし「前向きの異端が宗教の生命を保って来たことは歴史の証するところ」である。

 たしかに「日本人の宗教意識には……個人崇拝的な面が認められます……が、大切なのは、そんなことより……それ以前の、自立という先決問題があるのではないでしょうか」

 「4.今後の課題」については、こう語る。「キリスト教に今後期待される点では、現状のキリスト教にとどまる限り、すべて今日の他の日本の宗教で充たされていて、特別に何もありません」。

 さて、たいへん手厳しい「キリスト教」批判だ。まず、確認しておくと笠原の矛先は、プロテスタントに向いている。カトリックに至っては「宗教と認めない」とまで書かれている。無教会だけが僅かに評価された。

 いずれにせよ、笠原の「キリスト教」批判の根幹は、土着化していないこと、つまり経済的・精神的に外国の「ひもつき」である事実だ。海外からの献金によって建てられた教会は数多く、現在でも資金援助を受けている教団教派も多いだろう。

 土地の固有性に宗教が密着して花開くという意味で、それは問題かもしれない。もちろん笠原の「キリスト教」理解は、あまりに狭い。彼の専門ではないから、そこは目をつむりたい。

 一方で考える。「キリスト教」は、そもそも「近代国家・日本」という枠組みをこえた「世界宗教」でもある。いいかえれば、浄土真宗などの鎌倉仏教が「日本」の枠組みを越えて、世界に広がる時に「日本仏教」もまた、日本語キリスト教と同様の困難に出会う。つまり、笠原の批判を返す刀で受けることになるだろう。

 笠原の辛辣な批判から半世紀、教会の経済事情は、より大きな課題となった。不完全ながらもSNSが惑星全体を同期し、グローバル・コングロマリットが市場を席巻する今、世界はつながっている。

 現在、南北格差を視野に入れ、環境問題と科学技術を前提に、「解放の神学」やキリスト教経済思想を問うことは、ほとんど常識である。

 今、このパンデミック下で「悩める民衆がふたたびひとり立ちして、新しい生活を送れるようになる」ために、教会や寺社仏閣に、「宗教」には何ができるのか。未曾有の世界恐慌の中で、「ひもつき」であれ何であれ、宗教の金は何に使われるべきなのか。

 笠原の見た当時の「日本」と、ぼくらの見ている「日本」は、何が違い、どこが同じなのだろう。現代「日本」の宗教にとって「新しい生活」とは何を意味するのだろう。

文・写真 波勢邦生/編集部

【日本人のみたキリスト教「今昔」】第3回 「忘れられている宗教の役割」政治思想史学者・神島二郎 2020年6月27日

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