香港情勢を憂う牧師有志 祈りで連帯「若者に希望を」 2020年9月11日

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「時代論壇」のFacebook(2019年10月23日)ページから香港で行われた「祈祷会」の様子

国家安全維持法(国安法)の成立後、警察による取り締まり強化と深まる分断で混迷の様相を呈する香港。民主化闘争の先頭に立ったリーダーが組織を離脱し、「香港2020福音宣言」の起草者として名を連ねた牧師も教会の職を辞さなければならない事態にまで追い込まれている。

こうした状況を憂慮し、隣国から連帯の意思を表そうと教派を超えて集まった有志の牧師12人が8月21日、オンラインで緊急の祈祷会を開催した。会には現地の牧師から匿名で「祈祷要請文」が送られ、香港の教会が直面する課題などを共有した。

要請文は「『一国二制度』はもはや完全に消滅した」としながら、「暗闇から抜け出し」「再び晴れ渡るような日が来るという希望」を抱き、逮捕・拘束された人々、指名手配された人々、特に若者が失望せず、信念を持ち続け、未来のために戦い続けることができるように祈ってほしいと訴えた。

香港の教会は全体的に保守的で、2014年の雨傘運動への参与は多くなかったものの、19年の「逃亡犯条例」改正反対運動では、多くの牧師や信徒が署名に協力し、デモ参加者のための休憩所として会堂を開放した教会も少なくなかった。

しかし、「国安法」施行後は同法への支持を表明する教会指導者も現れ、「不満を抱く青年層の信徒たちが教会を離れ」たり、逆に高齢信徒や富裕層の信徒たちが「オープン過ぎる」教会を離れ、より保守的な教会に移るという現象も起きているという。

要請文は牧会上の課題として、「教会は現在の政治状況に対してどのように関心を払うべきか。牧師たちは教会内での信徒たちの政治的見解の相違に直面する中で、どのように彼らを牧会すべきか」「若い牧師たちが教会の中で保守的な年配の長老・執事たちとも向き合わねばならないとき、どのようにこれらの長老・執事を牧会すべきか」を挙げて結ばれている。

今回の緊急祈祷会は非公開で行われたが、呼びかけ人として名前を連ねた牧師たち*は、今後も扇動的にならないよう慎重に配慮しつつ連帯の輪を広げていこうと知恵を絞っている。

*朝岡勝(日本同盟基督教団徳丸町キリスト教会牧師)、大石周平(日本キリスト教会府中中河原教会牧師)、大嶋重徳(日本福音自由教会協議会鳩ヶ谷福音自由教会牧師)、大西良嗣(日本キリスト改革派宝塚教会牧師)、伽賀由(日本メノナイトキリスト教会協議会日本メノナイト帯広キリスト教会)、唐澤健太 (カンバーランド長老教会国立のぞみ教会牧師)、平野克己(日本基督教団代田教会牧師)、星出卓也(日本長老教会西武柳沢キリスト教会牧師)、 増田将平(日本基督教団青山教会牧師)、松谷曄介(日本基督教団牧師、金城学院大学宗教主事)、三輪地塩(日本キリスト教会浦和教会牧師)、森島豊(日本基督教団牧師、青山学院大学宗教主任)=五十音順、敬称略。

「要請文」の全文は以下の通り。


香港の某牧師より

まず初めに、日本の主にある兄弟姉妹の皆さんが、香港と香港教会に関心を払い、このように祈祷会を開いてくださることを感謝いたします。本来であれば、オンラインでお話することをお引き受けしていました。しかし、既に皆さんもご存じのように、香港で最近起こっている出来事のこともありますので、万が一、先々面倒な問題が起きるのを避けるために、今回はお話しする内容を書き記し、翻訳・代読をしていただく形とさせていただきました。私が言う「面倒な問題」については、後ほど説明いたします。

1.香港のための祈りの課題

この数年間、香港は大きな衝撃に直面してきました。香港が中国に返還されて以降、「中英共同声明」(1984年)に基づいて、香港における「一国二制度」が約束されていましたが、この数年間で、それが少しずつ失われてきました。たとえば、行政長官選挙と立法会議員選挙を、将来的には市民による1人1票の直接普通選挙で実施することが約束されていましたが、北京中央政府の勝手な法解釈により、その中身は偽普通選挙に完全に変質してしまいました。2014年、真の普通選挙が覆されてしまったため、「雨傘運動」が起こりました。「雨傘運動」は79日間で終わり、真の普通選挙を勝ち取ることはできませんでした。しかし、幸いなことに、市民の心は死んではいませんでした。

2019年、「逃亡犯条例」改正案が立法会で審議され始めました。これは、たとえ香港人であっても、もし中国大陸の法律に違反している疑いがある場合には、中国大陸に送られて裁判を受けることになる、という法律です。本来、法律に違反する行為があった場合、犯人が引き渡されるというのは当然のことですが、しかし中国大陸と香港の法制度は大きく異なり、中国大陸では公平な裁判を受けることができません。ですから、香港市民はこの条例改正に反対し、100万人デモ、また200万人デモで抗議しましたが、香港政府はかえって警察の暴力によってデモを鎮圧しようとしました。こうした状況に加え、武漢ウィルス(新型コロナウィルス)の感染拡大が始まり、香港政府は「感染防止」を口実に、市民のデモを許可しなくなりました。それでも、心は死んでいない市民たちにより、小規模の反対デモが繰り返し行われています。「逃亡犯条例」改正反対運動は1年余り続き、現在も継続中です。

当局は、香港市民の抗議に対する取り締まりを強化するため、香港版国家安全維持法の採択を推し進めました。この法律の制定過程は、香港の他の法律の制定過程と異なり、香港の立法会(議会)が制定したのではなく、香港での統制を強めるために北京中央政府が制定したものでした。しかも、法律が可決される前に、香港人がその法律内容を知ることはできませんでした。

この法律が取り締まりの対象とするのは、主に「国家分裂」、「国家政権転覆」、「テロ活動」、「外国勢力との結託」の四つです。しかし、法律の内容が曖昧であるため、政権側が恣意的に解釈できるようになっています。たとえば、香港政府は、昨年来の「逃亡犯条例」改正反対運動の中で用いられていた「香港を取り戻せ、この時代の革命だ(光復香港、時代革命)」や「香港、頑張れ(香港加油)」などのスローガンを、「香港独立」や「国家分裂」を扇動していると見なすようになりました。

今年9月に予定されていた立法会選挙が強引に1年間延期されてしまいましたが、当初、立候補予定者たちは自分たちが過半数の議席をとることで、「政府の不合理な法案を否決できるかもしれない」と考えていました。しかし、こうした立候補予定者たちが「政権転覆を図っている」、「香港基本法を支持していない」といった理由で、彼らの立候補資格までもが取り消されてしまいました。ネットやSNSなどで外国と連絡をとったということで、それが「外国勢力との結託」と見なされてしまうようにもなりましたし。当然のことながら、昨年来の「逃亡犯条例」改正反対運動そのものも「テロ活動」と見なされるようになってしまいました。

国家安全維持法は、香港の自由、特に「言論の自由」、「報道の自由」、「集会の自由」、「結社の自由」などに大きな打撃を与えました。法律が施行されて1カ月経たないうちに、20人以上が逮捕されました。さらには海外にいる人までもが指名手配され、その中には外国籍の人も含まれています。ついこの間は、政府に批判的な新聞「アップル・デイリー」の創立者、ジミー・ライ氏が逮捕されましたが、当局は新聞社のオフィスを好き放題に操作し、報道の自由を弾圧しました。また、皆さんもご存じの周庭(アグネス・チョウ)氏を当局は無理やりに逮捕しましたが、彼女は「外国メディアと結託した」と見なされていました(実のところ、今晩のこうした皆さんとの分かち合いが、「外国勢力との結託」と見なされ、逮捕される理由になりやしないか、ということも心配です)。

問題は、国家安全維持法だけに留まりません。過去1年間、香港政府は抗議デモを取り締まる他に、大学や小中高校など教育界に対する統制も強めています。カリキュラムの改変を検討するだけでなく、政府に反対するような言動をとった教師たちに対して圧力を加え、一部の教師の教員資格を取り消したりもしました。現在、メディアに対する弾圧に始まり、言論の自由・報道の自由などに対して弾圧が加えられています。

香港の状況に関して全体として言えることは、「一国二制度」はもはや完全に消滅した、ということです。香港は、「法治・人権・民主・自由が失われてしまった」という意味で、「中国的な特色がある地域」になってしまったと言えるでしょう。

今晩の祈祷会では、皆様にぜひ、香港のために祈っていただきたく願っています。

香港は暗闇に覆われてしまいましたが、香港がこの暗闇から抜け出し、光が再び香港を照らし、再び晴れ渡るような日が来るという希望をもっています。どうか、逮捕・拘束された人々、指名手配された人々のために、彼らに平安があるように祈ってください。また、香港の若者たちのために祈ってください。彼らは香港を愛しており、ただ全体主義政権によって支配されたくないだけです。彼らの心が折れてしまったり、失望したりしてしまわないように、そして信念を持ち続け、香港の未来のために戦いつづけることができるように、祈ってください。

2.香港教会のための祈り

香港の教会は、全体的にとても保守的です。従来、政治に言及することなく、ただ霊的な命を追い求めることだけを語ってきました。しかし、この数年、社会の大きな変化に直面し、教会も独善的ではいられなくなりました。

社会において政治的立場が異なることで様々な対立・分裂が起こっていますが、教会においても同様です。若い世代は社会の問題に多くの関心を寄せており、政治が社会に及ぼす影響にも関心を持っています。しかし教会の年輩の世代や裕福な家庭の信徒たちは、教会が政治にかかわることで、教会の運営に影響が出たり、また社会の混乱が自分たちの既得利益的な生活に影響が出ることを恐れたりし、教会は政治にかかわるべきでないと考えています。

2014年の雨傘運動の際には、教会の参与は多くありませんでしたが、若い信徒たちはそれぞれの仕方で運動に参加していました。

2019年の「逃亡犯条例」改正反対運動の際には、教会の参与も比較的多くみられるようになりました。多くの牧師や信徒が条例改正反対の署名をしました。教会も、条例改正に対して憂慮を表明しました。抗議デモは香港の各地で展開され、多くの教会がデモ参加者のための休憩所として会堂を開放しました。「逃亡犯条例」改正反対運動に教会が積極的に参加したのには、多くの市民が参加していたからという理由以外に、いくつかの教会にとっては、もし条例が改正されてしまうと、中国大陸でおこなっている自分たちの宣教活動とそのスタッフたちに影響が出ることが懸念されたからです。

2020年、香港版「国家安全維持法」が施行された際には、若い信徒たちの多くは反対意見を表面しましたが、教会の指導者たちは、一、二の事例を除いては何の応答もしませんでした。逆に、香港聖公会の大主教はこの法律に対する支持を表明しました。また、香港キリスト教協議会は法律施行前には、「この法律が人権に符合する法律であることを願う」とこの法律に対する関心を表明していましたが、法律施行後には何の応答もしていません。

国家安全維持法に対する教会の反応があまり見られない一つの理由は、たとえ何らかの応答をしたとしても、北京中央政府も香港政府がどうせ耳を貸さないだろうことが明らかだからです。しかし、もう一つの理由は、国家安全維持法には宗教活動に言及した条項がないため、宗教の自由(信教の自由)には何の影響もないかのように思われ、それで教会は何の意見も表明しようとはしないのです。

確かに、国家安全維持法が施行されたばかりの時期には、宗教に対してそれほど大きな影響はないでしょう。しかし長期的に見るならば、本当にこのままの状況が続くのでしょうか。私たちは、中国大陸における宗教弾圧を見ています。そうした弾圧は、通常は宗教の名目で行われるのではなく、「国家政権転覆」や「金銭的詐欺」など、でっち上げられた罪名で行われます。しかも非公開の公正ではない裁判の仕方で、弾圧が進められていきます。中国国内の弾圧は、全面的に宗教を弾圧するのではなく、政権に反対する一部の宗教者をターゲットにして弾圧を加える、というやり方です。

ですから、国家安全維持法は表面上は宗教に言及していませんが、言論の自由に関しては、政府に対する批判などが実質上、禁止されてしまいますので、そうなると教会の説教にも制限が出てくるかもしれません。教会は国家安全維持法の問題を短期的に見ており、将来的な影響を長期的に見ていないのです。

もちろん、こうした問題点に気付いている青年信徒や牧師たちも少なくありません。そうした中の有志の牧師・神学教師たちが「香港2020福音宣言」を起草し、教会は単に信徒の霊的な命に関心を向けるためだけに存在しているのではなく、ミカ書6章8節にあるように、社会において「正義を行い、慈しみを愛する」ためにも存在している、ということを表明しました。こうした人たちの中には、国家安全維持法に対して公に反対している人もいます。

教会が社会的な出来事に応答しようとするとき、さまざまに異なる立場があるのは明らかですし、また立場の相違によって対立・分裂が起こることもあります。この数年間、香港教会の成長はあまり見られず、むしろ教会が保守的な立場であったり、政治の事柄を無視していたりすることに対して不満を抱く青年層の信徒たちが、教会を離れてしまうようになりました。教会を離れたこうした青年たちは、ある人はよりオープンな教会に行くようになり、ある人は教会に行かなくなり、ある人は別の教会グループを立ち上げたりしています。オンライン型の教会も、こうした中から生まれてきています。比較的オープンと言われる教会であっても、年輩の信徒や富裕層の信徒たちは、教会がオープン過ぎるとして教会を離れ、より保守的な教会に移るということも起きています。現在は新型コロナウィルスの影響により、教会での集会ができなくなってしまいましたので、こうした信徒の流出・流動がどのような結果となるのかは、今のところ未知数ですが、ウィルスが終息した後に、明らかとなることでしょう。

ですから、どうぞ皆さん、香港の教会のためにも祈ってください。政治が混乱している社会にあって、教会がどのようにして一致を保つことができるのか、またどのような一致が神の御心に沿うものなのかが問われています。また社会における教会の役割は何なのか。教会は現在の政治状況に対してどのように関心を払うべきか。牧師たちは教会内での信徒たちの政治的見解の相違に直面するなかで、どのように彼らを牧会すべきか。特に、若い牧師たちは、若者世代が自分たちが実際に生活しているこの香港の将来に向き合っていけるように、どのようにして彼らを導くべきか。若い牧師たちが教会の中で保守的な年配の長老・執事たちとも向き合わねばならないとき、どのようにこれらの長老・執事を牧会すべきか。こうした多くの課題があります。このような牧会上の課題のために、特に祈ってください。

〝教会はなぜ存在するか〟 「逃亡犯条例」改正反対運動と「福音宣言」の背景 香港紙「時代論壇」インタビューより 2020年8月25日

「香港2020福音宣言」の起草者2人 教会の職を辞し避難か? 2020年8月14日

 






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