【宗教リテラシー向上委員会】 ムスリム女性のマスク事情 小村明子 2020年10月1日

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前回に引き続き、今回もムスリム女性の服装の話をしようと思う。ムスリムにとってのマスク姿はあまり違和感がないことを述べた。アバーヤやニカーブといった顔を隠す服装もあるために見慣れていると言っても良いだろう。ただ、ムスリム女性が市販のマスクを着用する時はどうするのだろうか。その着用方法に、筆者はふと疑問が湧いた。ムスリム女性の場合、外出している時や人と会っている時は常にスカーフを着用している。そのため耳がスカーフの中にあり、マスクの着脱が容易ではないからである。また1日5回義務づけられている礼拝は、顔を覆っているものはすべて外して行うことから、着脱が簡単なマスクの方が彼女らにとって都合が良い。

そこで、スカーフをつけている際のマスクの着脱方法について、日本人ムスリム女性の知人に聞いてみたところ、マスクの形状に応じて事情は異なるという。

通常のマスクはゴムが両サイドについており、耳にかけるようになっている。これだと、スカーフの中に手を入れて耳からゴムを外すことになるのでスカーフが緩くなってしまい、スカーフ自体を再度しっかりと被り直さない限り、後でずれてくることもあるという。スカーフをつけたままマスクを取り外しするのも時間がかかり、耳にゴムをかけ損ねることもあるという。

そこで、後頭部で紐を結ぶという別タイプのマスクを着用する人もいる。特に、外出時など常にスカーフ自体を着脱できない状況にいることが多い場合、スカーフの上から紐を後頭部で結ぶタイプのものを好んで使用する人もいるという。これだと紐を外すだけなので、スカーフが緩むことがない。

なおスカーフの着脱について言えば、たとえ女性だけの部屋にいる時であっても人前であるためあまり脱ぐことはしない。一度スカーフを着用すれば余程のことがない限りは着用したままとなる。ムスリム女性にとって、スカーフが緩むのは服装の乱れと同じで、マナーとして問われる好ましくないことだからである。

ただ、そのスカーフも一部地域の若い世代においては変化していると言える。実際、東南アジア、特にマレーシアやインドネシアの10代の女性の間で見られることだが、彼女らを読者層とする雑誌の中で、スカーフのさまざまな結び方などの着用方法を掲載しているものを目にすることがある。

またスカーフの色だけでなく、結び方やスカーフをとめるピンなども個性あふれるものが多くなっている。中には物語に出てくる王女を真似ているのだろう、スカーフの上にティアラをつけたものまであった。マレーシアから来て20年以上日本に暮らしている成人した娘を2人持つムスリム女性にこの記事の写真を見せた時には、呆れたのだろう「やり過ぎですね」とのコメントがあった。彼女は続けて「子どもは親が言うことは何を言っても聞かない時があるからね」とも加えた。

伝統的なスカーフも少しずつ変わっていく。ムスリム女性はスカーフを着用しなければならないという義務は今後もそのまま残るだろうが、いかなる方法で着用するのか、その方法と使用される素材や物そのものは、時代と共に変化していくのだろう。

小村明子(立教大学兼任講師)
 こむら・あきこ 東京都生まれ。日本のイスラームおよびムスリムを20年以上にわたり研究。現在は、地域振興と異文化理解についてフィールドワークを行っている。博士(地域研究)。著書に、『日本とイスラームが出会うとき――その歴史と可能性』(現代書館)、『日本のイスラーム』(朝日新聞出版)がある。

 






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