日本初演の伝ヘンデル作曲「ヨハネ受難曲」 バッハ・ゲゼルシャフト東京第1回演奏会

 

音楽学者の加藤拓未(たくみ)さん(日本福音ルーテル大森教会会員)率いるバッハ・ゲゼルシャフト東京の第1回演奏会が10日、日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)で開催され、約200人が集まった。J・S・バッハに影響を与えたといわれながら、日本ではこれまで演奏されることのなかった伝G・F・ヘンデル作曲「ヨハネ受難曲」が演奏された。

バッハ・ゲゼルシャフト東京=10日、日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)で

バッハ・ゲゼルシャフト東京は、2015年に結成されたアマチュア合唱団。J・S・バッハの「マタイ受難曲」「ヨハネ受難曲」を中心に、単に歌うだけでなく、音楽史の中で作品を理解することも大切にして活動している。

この日は、クリスマス時期に演奏されるカンタータ、J・S・バッハ作曲「喜び勇んで羽ばたき昇れ」BWV36と、イースター前に演奏されるこの「ヨハネ受難曲」が演奏された。この組み合わせについて、加藤さんは次のように話す。

バッハ・ゲゼルシャフト東京代表の加藤拓未さん=10日、日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)で

父なる神の御心に従い、人間を罪から救うためにイエス様が受けた苦しみを思うと、クリスマスは決して手放しに喜べることではありません。つまり、イエス様の降誕と死・復活は一つの線で結ばれているのです。今回、二つの異なる時期の作品を選んだのも、こうした降誕と受難の結びつきを意識したからです」

初めにバッハのカンタータが演奏された。バッハの時代には第1部と第2部に分け、その間に牧師が説教を行ったという。第1部の最後を締めくくるのは、16世紀のルター派牧師フィリップ・ニコライが作曲したコラールで、ドイツのルーテル教会では非常に有名な賛美歌。「ここはルーテル東京教会の礼拝堂ですから、ルーテル教会の重要な賛美歌を聴くにはぴったりです」と加藤さん。

第2部は、救い主の到来を歓迎する思いを力強く歌うバスのアリアで始まり、その後をソプラノの穏やかで静かなアリアが追う構成。それは、私たちがバスのような強い信徒ばかりでなく、ソプラノのような弱い信徒でも、その祈りは神様に届くことを示している。最後を締めくくったのはマルティン・ルターの有名なコラール「さあ来てください、異邦人の救い主よ」。12月になるとドイツ中でこのコラールが聴かれるという。

礼拝堂に響き渡る歌声に聴き入る人たち=10日、日本福音ルーテル
東京教会(東京都新宿区)で

続いて演奏された「ヨハネ受難曲」は、かつてはヘンデル(1685~1759)の若い頃の作品といわれてきたが、現在ではその可能性はかなり低く、同時代のオペラ作曲家ラインハルト・カイザー(1674~1793)の作曲という説が有力だ。そのため、「伝G・F・ヘンデル作曲」とされた。

同作品は、バッハが「ヨハネ受難曲」を作曲する際に参考にしたともいわれ、比べてみると、確かに構成や内容において類似点がいくつもある。一方、加藤さんは次のようにも話す。

「これはバッハの受難曲より30年くらい前の作品なので、流行の違いもあり、バッハとは音楽の世界が違って、控えめな印象を受けます。ですが、この作品を単独で見れば、美しい旋律のアリアや多彩な合唱曲などが数多くあり、実に魅力的です。特にアリアは、演奏するには非常に難しく、当時もプロのオペラ歌手が歌っていたのではないかと思われます。作品構成も入念に練られていて、非常に密度の濃い作品といえます。ヨーロッパでは定期的に演奏されているので、日本でもこうした作品を演奏していくことは大事だと思います」

指揮は長岡聡季(さとき)さん(北海道教育大学特任准教授)が務め、国内外で活躍する実力派の歌手やバッハ・チェンバー・プレイヤーズ・トウキョウが共演した。

演奏会に来た20代女性は次のように感想を語った。「礼拝堂で聞くと、当時の演奏がよみがえってくるような感じがしました。素晴らしい熱演に引き込まれ、演奏と一体になってしまいました。大成功のコンサートだったと思います」

 






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