貴重な戦争史跡でもあるカトリック清水教会、取り壊しに

カトリック清水教会(静岡市清水区、高橋慎一主任司祭)の築85年になる木造の聖堂が取り壊されることに決まった。1935(昭和10)年に献堂された、2本の尖塔を持つロマネスク様式の美しい聖堂だ。

カトリック清水教会(写真:天上の青)

聖堂は歴史的・文化的価値はあるものの、現在の耐震基準を満たしていない上に老朽化が進んでいる。市民の間では保存運動も起こったが、保存のための対策をとることが現実的に難しいため、建て替えるという決断がなされた。

同教会を管轄するカトリック横浜教区(教区長:梅村昌弘司教)は8月21日付の文書で以下のように通知した。耐震診断の結果などから、強い地震があれば聖堂は倒壊する可能性が非常に高く、耐震補強をしても現在の雰囲気を維持できず、現状を維持するための現実的な補強案もないことから、保存を断念し、解体して新しい聖堂を建設するという。

一方、これまで聖堂の永続的な保存を求めてきたのは、「平和遺産・聖堂を保存する会」という市民グループ。メンバーは信者ではないが、聖堂が町のシンボルでもあり、太平洋戦争の記憶を残す貴重な戦争史跡であるため、保存を願う信徒たちと共に保存運動を続けてきた。昨年、地元の連合自治会や高校のOB会、商店や事業者、各種市民サークル、教会付属の聖母保育園OBなど、8000人を超える署名を集め、駐日バチカン大使やカトリック中央協議会の髙見三明大司教、横浜教区の梅村司教宛に送っている。また、景観は今と変わらず補強できるとの専門家の意見も伝えていた。

カトリック清水教会聖堂内部(写真:天上の青)

聖堂内部は畳敷きで、その上に長椅子が置かれ、フランス製のステンドグラス越しに柔らかな日差しが入るという、和と洋が融合する雰囲気。天上のアーチなどは、地元の船大工が製作して建設されたという。日曜日には100~120人がミサに集まり、フィリピンや南米、台湾、韓国、ベトナムなどの出身者も共に聖体拝領にあずかる。

清水区は静岡市の東部にあり、富士宮市と隣接。カトリック清水教会は、「旅姿三人男」でも歌われた清水港にほど近いところにある。富士山を望むことができ、三保の松原に囲まれた美しい港で、長崎、神戸とともに日本三大美港の一つに数えられている。

清水港と富士山(写真:Alpsdake)

いま清水教会が建っている場所は、江戸時代、徳川家康の別邸「清水御浜御殿」があったところ。1609年に徳川頼宣(よりのぶ。家康の十男で、徳川御三家の一つ、紀州徳川家の祖)が、駿府に隠居した父親の休養所として建てた御殿だ。このように、禁教令を出した家康の屋敷跡が、300年後、カトリック清水教会と清水聖母保育園になった。

清水教会の設立は1932年。その3年後、現在地にフランス人司祭、ルシアン・ドラエ神父の設計と施工指導によって聖堂が建てられた。その建設のためには、ドラエ神父が私財を投じただけでなく、故国から資金協力を仰ぎ、苦労して教会建設の資金を調達したという。献堂式はシャンボン大司教司式のもとに盛大に行われ、当時の「カトリック新聞」には「富岳を背景に清水教会落成」という見出しで、写真入りの記事が掲載されている。

ドラエ神父は1909年、25歳の時に宣教師として来日。東京、八王子、前橋などで伝道に従事したのち、14年、静岡教会の主任司祭となり、浜松、清水、焼津、藤枝の各地を巡回した。

ドラエ神父は第二次世界大戦中も日本に留まり、45年6月の静岡大空襲の際には、負傷者を清水教会に避難させ、救護した。空爆と艦砲射撃により焼け野原となった清水に奇跡的に残った建物はたった二つだけで、その一つがこの清水教会だった。現在も当時の姿を残し、平和を願うシンボルとして市民から愛されている。戦後、ドラエ神父は2年間の休暇を取ってフランスに帰ったが、再び日本に戻ってから57年に72歳で帰天するまで、フランスに帰国することはなかった。

ドラエ神父が1917年に建てた谷津教会(静岡教会から8キロほど離れたところにある)は、「国土の歴史的景観に寄与している」として、97年に国指定の登録有形文化財となったが、2012年に放火によって焼失した。木造平屋建て、瓦葺(かわらぶ)き下見板張りで、内部は畳敷きだった。

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