(前編を読む)
あなた自身を売り込む
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ネット通販によって収益が脅かされるため、書店にとってインターネットの存在は命運を左右すると言われてきた。市場コンサルタントが勧めているのは、SNSのフォロワーを増やすために、スマホで動画を撮ってフェイスブックに投稿することだ。
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多くの書店オーナーにとってこの勧めは目新しく、馴染みのないものだった。しかし、福音派出版業界のほかの面では、これはビジネスの一部にすぎない。書店の棚とアマゾンのランキングを奪い合っている有名なクリスチャン作家を挙げてみよう。実在のスターであるチップとジョアンア・ゲインズ、テレビ・シリーズ「ダック・ダイナスティー」製作班、そしてインスタグラムでインフルエンサーとして有名になったレイチェル・ホリスなどだ。
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エリザベス・ニューサムはヤングアダルト小説の処女作『捕虜と王冠』を21歳で出版した。その発売直前、彼女はテキサス大学タイラーの学生寮で、講義が始まる前に小説を執筆しようと起床した。彼女はすでに次回作に手をつけていた。しかしまず、祈りの日記に手を伸ばす。未来を夢見ていても、そこには現在形で書きつける。「私はベストセラー作家で、TED(さまざまなプレゼンテーションを配信するアプリ)の語り手だ。自分の小説によって人にインスピレーションを与えた」
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放課後、この若い作家はSNSに取りかかる。執筆と同じくらい多くの時間を、著作のマーケティングのために費やすのだ。ニューサムは、フェイスブックとインスタグラム、ブログを使っている。フィクション作家向けのSNS「ワットパッド」には3万人のフォロワーがいる。
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最近、ニューサムは、新たな配信手段として始めたユーチューブに力を入れている。そこには数百人のチャンネル登録者がいる。ニューサムは言う。「勇気を出すのには時間がかかりました。しかし、人とつながることが、本を売る方法なのです」
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作家向けのサービスを手がけるブックストーン・クリエイティブ・グループのオーナー、スザンナ・クーンは、ニューサムのマーケティングのコーチをしている。クーンによれば、多くのクリスチャン作家は自分の宣伝を不快に思っているという。自らが有名になることを強調するのは、神に信頼していないことだ。しかしクーンにしてみれば、オンラインのフォロワーを増やすことは、教会の礼拝を宣伝したり、リバイバルに向けて計画を練ることと大差はない。
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「宣伝するのは、あなたについてではありません。キリストへの献身のためなら、マーケティングについて考えることを不快に思うことはないでしょう」と彼女は言う。「イエスについて理解すれば、それは必要悪ではなく、必要なリソースであることが分かります」
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これは、ビジネスがどう変化したのかのサインだ。確かに過去のクリスチャン作家は、読者とつながるために時間を割いた。しかし、84歳の作家ジャネット・オケと72歳の作家フランシン・リバースが、物語に感動した読者からの手紙に直筆で返事を書いていた場所で、ニューサムはキャリアを積み始めるため、インターネット上のマイナーな有名人になる必要性を感じている。また彼女は、最初の小説を出版するための費用も負担した。
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「正直に言って、何冊かの本で利益を失うことは納得しています」。作家としてのキャリアを確立するためにマーケティングに専念することを決めたニューサムは言う。「これは私がすることです。私はアルバイトもしていますし、両親は私を支えてくれています。最悪のシナリオは、借金をすることです。とにかく、私が持っているすべてと、このビジョンを前進させることで得られるすべてを用います」
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彼女が理解しているように、これが現代のマーケットの現実だ。明朝、目覚めると、出版できる日と、「私は成功した小説家だ」と言える日が来るようにとの祈りに、彼女はまた1日近づいていく。
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損失の削減
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夏休みの間、ニューサムもマフリーズボロの見本市に参加した。自分のヤングアダルト作品を見てもらい、独立系のキリスト教書店に並べてもらうためだ。わずか1年前には、自分の本がライフウェイのような全国規模のキリスト教書店に並んでいることを想像できた。ライフウェイは、彼女が住むテキサスに23店舗あったからだ。しかし、それが今では廃業したか閉店セールをやっているかで、彼女のような作家は、本を売るためのルートをほかに探さなければならなくなったのだ。
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ライフウェイに置かれていた書籍は結局、独立系のキリスト教書店に行き着いた。ライフウェイのバイブル・スタディー本を売るために数百店がサインをした。これはライフウェイにとって、新たな時代、リノベーションの始まりにすぎない。
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「私の最大の恐れは、この新しい時代の現実を受け入れないことです」と、南部バプテスト連盟の出版社であるライフウェイの新しいCEO兼社長ベン・マンドレルは言う。彼は実店舗の閉店決定後に社長に就任した。
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「過去を祝福することについては、私たちは得意です。石が積み重ねられているのを見て、そこで何が起きたのかを想い起こすことについてはとても信仰的なのです。しかし、ライフウェイの真の目標は、未来志向でなければなりません。私たちは未来に生きるのです」
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マンドレルは、夫婦でデンバーに創立した教会を去った。この仕事に召されていると感じだからだ。彼は今、ナッシュビルの自宅を午前4時半に出発する。トレーニング・ウェアを着て、会社の本社に向かう。音楽ストリーミング・サービス「スポティファイ」の礼拝音楽のプレイリストを再生する。最初の曲は、「わが救い主は誠実で真実」だ。
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彼が経営の舵(かじ)を取るまでに、ライフウェイは約5000万ドルを失っていた。出版社は損失を好転させるべく、さまざまなプランをテストし、一時それは40にも及んだ。テクノロジーを試し、マーケティングに力を入れ、顧客獲得戦略を実行した。しかし、いずれも上手くいなかったようだ。店舗は損失を出し続けた。
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会社の公式報告によると、この傾向が続くと、店舗の収益性が失われるだけではないという懸念を取締役会は持つようになった。損失は、会社全体を破産させるほど大きくなりかねなかった。あらゆる規模で、今のマーケットではチェーン方式は持続可能性がないと報告されたのだ。「福音派書店の小売店チェーンが上手くいかないとしたら、どんなキリスト教書店が生き残れるのか」という質問についての解答はいまだに出ていない。
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マンドレルは、業界全体の心配をすることはできない。ライフウェイに集中している。ライフウェイは100を超えるブランドを作っているが、彼はこれを過剰だと考えている。車内で礼拝音楽を聴きながら、彼は神に語りかける。「あなたがこのミニストリーに類を見ないほどのつながりを持たれたのはなぜですか。もしほかの人々のほうが優れていて、あなたが私たちを必要としないなら、私たちはどこに関与すればいいのでしょう」
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午前5時、2年前に移転したばかりのライフウェイ本社の前で彼は車を停める。「このビルにいる700人以上の従業員は変化しなければならないことを知っています」と彼は言う。「彼らは革新的になる責任を感じ、やる気は満々です。世界は変化しており、私たちはそれとともに変化しなければなりません」
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ライフウェイのジムで運動してから、マンドレルはオフィスに入る。今朝は、さまざまな商品を見るのに最初の90分を費やした。最初は10代向けのディボーション用の本、次にスタディー・バイブルだ。ライフウェイの『古代信仰スタディー・バイブル』で、教会の初めの400年間についての注釈と解説がついている。毎週、自分が説教をしていた頃、これをどれだけ愛用していたかを考えた。ライフウェイの今後の変化の全容は分からなくとも、彼はこのようなスタディー・バイブルを販売したいのだ。
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プエブロから西に1000マイル以上離れたところでヘザー・トロストは、グレーティスト・ギフト&スクリプチャー・サプライで祈っていたのと同じ祈りを祈っている。
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「聖書は、店内にある他のすべての商品の源です」と彼女は言う。「もし人々が神の言葉を文字どおり『日ごとの糧(かて)』として持っていないのなら、私たちは間違ったことをしています。そして、私たちの個人的・家庭的・国家的な生活の中でどれほど物事は悪化していくだろうと思うのです」
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ある女性が聖書を探して店内を歩いている。彼女の娘が結婚するにあたって、ゲストブックではなく、「家族の聖書」を買うことに決めたのだ。人々はその聖書の大切な箇所に線を引いたり、余白にメモをしたりして、二人を励ますことだろう。
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トロストは彼女に、新リビング・バイブルの『フィラメント・バイブル』を売った。この聖書は一段組みの本文になっており、余白に余裕がある。結婚式のゲストのためにちょうどいい。この聖書はスマホ・アプリとも連携していて、学問的な解説や対話型の地図、日常生活と聖書を橋渡しする質問などをそこで見ることができる。
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その女性は満足して店を出てゆき、トロストの祈りも聞かれた。これは個人と対話できる専門家のようなものだ。彼女は今後も、こうした買い物客がキリスト教書店に戻ってきてくれると信じている。
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しかし、数字はまた違ったことを物語る。今日のトロストの売り上げの15%を聖書が占めているが、特にウォルマート、コストコ、アマゾン、そして今ではスマホ・アプリと競合するために、その収益だけでは不十分だ。
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「この働きに神が誰を召されるのかは興味深いことです」と彼女は言う。「『どうなるか分からないけど、やってみよう』みたいな人々です。あとは聖霊におゆだねすることで安心するのです」
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明日も困難が続くことは明らかだが、しかし今日、彼女は言うことができる。「神は私たちを買い戻された」と。そしてそれこそ、不屈の信仰というビジネスに参加することの意味なのだ。
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執筆:ダニエル・シリマン
本記事は「クリスチャニティー・トゥデイ」(米国)より翻訳、転載しました。翻訳にあたって、多少の省略をしています。
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