「カトリックは私のような者のための宗教」 大回顧展「没後50年 藤田嗣治展」

 

日仏を舞台に活躍した画家、藤田嗣治(ふじた・つぐはる、1886~1968)の画業の全貌を展望できる大回顧展「没後50年 藤田嗣治展」(主催:東京都美術館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション)が7月31日から、東京・上野の東京都美術館で開催中だ。10月8日まで(10月19日から京都国立近代美術館で開催)。

藤田嗣治 「自画像」 (1929年、油彩、カンヴァス、東京国立近代美術館蔵© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833)

明治半ばの日本に生まれ、人生の約半分をフランスで暮らし、晩年にはカトリックの洗礼を受けた藤田。同展は、国内はもとより、欧米の主要美術館が所蔵する作品約120点を集めた、質・量ともに史上最大級の回顧展。

「81年の長い人生のうち60年間、スランプなしに描き続けた稀有(けう)な画家」と位置づけるのは、同展監修者で美術史家の林洋子さん。同展は、軍医の子として生まれた藤田が、東京美術学校(現:東京藝術大学)西洋画科で学んだ後、1913年に渡仏するところから始まり、晩年の宗教画に至るまで、激動の時代の中、描き続けた作品が、8つの章に分けて紹介される。

藤田嗣治「タピスリーの裸婦」(1923年、油彩、カンヴァス、京都国立近代美術館蔵 © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833)

展示の見どころは、藤田の代名詞ともいえる「乳白色の裸婦」10点以上が一堂に会していること。1920年代に制作された裸婦シリーズは、ヨーロッパ的な油彩技術を用いて、西洋における典型的な画題だった裸婦に真っ向から臨んでいる。一方、乳白色の肌や、浮世絵を思わせる平面的な画面構成には日本的な特徴も感じられ、このことから「第二のジャポニズム」を引き起こし、ヨーロッパ芸術の幅を広げたともいわれている。

また今回の展覧会では、1918年あたりの油彩画を集めることにも力を入れている。その時期の作品を見ることで、藤田がさまざまなモチーフを描く中で揺れながらも「乳白色の裸婦」へとたどり着いていく姿を目にすることができる。

そして、40年代に日本に戻って描かれた作戦記録画。遺体が累々(るいるい)と重なる「アッツ島玉砕」(1943)など2点が出品されている。戦後、そうした国策協力を糾弾された藤田は、49年に日本を離れ、パリに再び戻ることになる。

藤田嗣治「カフェ」(1949年、油彩、カンヴァス、ポンピドゥー・センター(フランス・パリ)蔵 Photo © Musée La Piscine (Roubaix), Dist. RMN-Grand Palais / Arnaud Loubry / distributed by AMF © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833)

その途中に立ち寄ったニューヨークで描かれたのが、本展覧会のポスターにも使われている「カフェ」(1949)だ。林さんは、この絵について次のように語る。

「藤田は、国策協力を糾弾されながらも筆を折らずに描いてきた。藤田が戦後をどう見ていたのか、私もなかなか答えが出せませんでしたが、誠を尽くして自分の画業を全うしたのだろうということを、この作品と日記等を見たことによって確信しました。いろいろなことがあって、この絵が描けたという奇跡を感じてほしい」

そして最後の章では、晩年、カトリック信徒として生きた芸術家レオナール・フジタの作品が紹介されている。55年にフランス国籍を取得した藤田は、59年10月14日、フランス北東部にあるランスの大聖堂で妻・君代と共にカトリックの洗礼を受ける。洗礼名は、敬愛するレオナルド・ダ・ヴィンチにちなみ「レオナール」。ここでは、ランス大聖堂へ献納された「聖母子」(59)をはじめ、「黙示録」の三連作(59~60)、洗礼後、キリスト教徒として初めて迎えたクリスマスに制作したとのサインを持つ「キリスト降架」(59)、生前最後の個展に出品された「礼拝」(62~63)などが並ぶ。

藤田嗣治「礼拝」(1962~63年、油彩・カンヴァス、パリ市立近代美術館(フランス)蔵 © Musée d’ Art Moderne / Roger-Viollet © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833)

「フランス人・キリスト教徒」となったことで、本物のヨーロッパ人として見られることを期待していたのではないかとも考えられるが、どんなに熱心に図象研究を重ねて描いた絵でも、現地の人にとっては「東洋人が描くキリスト教絵画」であることに変わりはなく、売れることはなかった。そんな中で藤田は、ただ純粋な信仰の証しとして作品を描き続けた。

当時、藤田は次のような言葉を残している。「カトリックは愛の宗教。私のような者のための宗教。自分を嫌う人がいても、相手を愛する。……150歳まで生きて、礼拝堂の装飾を、芸術家として信仰心を込めて行いたい」。その言葉どおり、亡くなる1年前には、ランスに礼拝堂「ノートル=ダム・ド・ラ・ぺ」(平和の聖母)を建設している。

開室時間は午前9時半から午後5時半まで。会期中の金曜日は午後8時まで。8月3日、10日、17日、24日、31日は午後9時まで(入室は閉室の30分前まで)。休室日は、月曜日、9月18日(火)、25日(火)。ただし、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、24日(月・休)、10月1日(月)、8日(月・祝)は開室。

観覧料は、一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、高校生800(600)円、65歳以上1000円(800円)。( )内は20人以上の団体料金。中学生以下、障がい者手帳所持者と介護者1人は無料。8月15日(水)、9月19日(水)はシルバーデーにより、65歳以上は無料。毎月第3土曜・翌日曜日は家族ふれあいの日により、18歳未満を同伴する保護者(都内在住、2人まで)は一般当日料金の半額。詳しくは、公式ホームページまで。

※「没後50年 藤田嗣治展」のペア入場券をプレゼントします。応募締め切りは8月15日(水)まで。応募は、住所、氏名、所属教会名を明記の上、「お問い合わせ」から。当選者発表は商品の発送をもって代えさせていただきます。当選に関するお問い合わせにはお答えすることはできません。

 






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