樋口進氏、「聖書協会共同訳」について語る(2)

 

新翻訳聖書セミナーが6月24日、松山ひめぎんホール(愛媛県松山市)で開かれた。そこで、「聖書協会共同訳」についての講演を、翻訳者・編集委員である樋口進(ひぐち・すすむ)氏(夙川学院院長)が行った。その内容を連載でお届けする。

樋口進氏=6月24日、松山ひめぎんホール(愛媛県松山市)で

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2 新しい聖書翻訳の必要性

言葉は時代と共に変化します。昨年、『広辞苑』が10年ぶりに改訂されました(第7版)。ここでかなり多くの語が加えられたということで、やはり言葉は日々変化していることが分かります。日本聖書協会から出された聖書もだいたい30年おきに新しい訳が出されてきました。

「新共同訳」は、20世紀のエキュメニカル運動の流れの中にあって、カトリックとプロテスタントが共同して訳したということが高く評価されます。そして、日本の多くの教会の礼拝で使われています(70%の教会で)。しかし、不適切な訳も指摘されてきました。

最初、ユージン・ナイダの提唱した「動的等価」理論に従って思い切った現代的な訳ということで進められました。そして、1979年に「新約聖書 共同訳」が出版されましたが、かなり不評でした。

たとえば、固有名詞が原音に近いということで、イエスは「イエスス」になり、福音書は「マタイオス」「マルコス」「ルカス」「ヨハンネス」福音書となるなど、多くの人が違和感を持ちました。また、マタイによる福音書の山上の説教で、「こころの貧しい人たちは、さいわいである」(5:3)というのが、現代的な訳ということで、「ただ神により頼む人々は、幸いだ」という訳になり、やはり違和感を抱きました。

そこで、途中から原文に忠実な訳ということに方向転換がなされましたが、曖昧(あいまい)さが残ってしまったところも多くありました。また、説明的な訳語も多くあります。たとえば、ラシャー(「悪人」)は「神に逆らう人」(詩125:3など)、ツァディーク(「正しい人」)は「神に従う人」(ハバクク2:4)などと訳されました。

エレミヤ書22章15節は、「新共同訳」では次のように訳されました。

あなたは、レバノン杉を多く得れば
立派な王だと思うのか。
あなたの父は、質素な生活をし(アーカル・ウェシャサー)
正義(ミシュパート)と恵みの業(ツェダカー)を行ったではないか。
そのころ、彼には幸いがあった。

ここでエレミヤは、現在の圧政的な王ヨヤキムと、正しい政治をしたその父ヨシヤとを比較して、ヨヤキムを非難しているのです。

ここで「質素な生活をし」と訳されている原文は、「食べ、そして飲む(アーカルとシャサー)」を意味する語です。ここでは、最初の方針である「動的等価」の訳が残ってしまったのでしょう。アーカル・ウェシャサーを「質素な生活をする」と訳している聖書はありませんし、そのような意味ではありません。少し独断的な訳だと思います。「新共同訳」には、このような訳がところどころに見受けられます。

また、「ツェダカー」は普通は「正義」と訳されますが、「新共同訳」では「恵みの業」と訳されました。これも不適切な訳だと思います。そしてここでは「ミシュパート」が「正義」と訳されていますが、これも「公正」がいいと思います。

そこで新しい「協会共同訳」では、次のように原文に忠実に訳されました。

あなたはレバノン杉を競って用い
それで王であろうとするのか。
あなたの父は食べそして飲み
公正と正義を行ったではないか。
その時、彼は幸福だった。(つづく

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