コラム

神さまが共におられる神秘(11)稲川圭三

おとなになっても「奇跡」は起こる

2012年8月5日 年間第18主日
(典礼歴B年に合わせ6年前の説教の再録、中高生夏合宿野外ミサで)
わたしのもとに来る者は決して飢えることがなく、わたしを信じる者は決して渇くことがない
ヨハネ6章24~35節

説 教

今日の福音は、5000人がパンを食べた「翌日」の出来事です。イエスさまは5000人の人たちに5つの大麦パンと2匹の魚を分けて食べさせて満腹させました。そして、少しも無駄にならないように、残ったパン屑(くず)を集めると、12の籠(かご)がいっぱいになったという出来事(ヨハネ6:1~15参照)の翌日、人々はまた、その出来事のあった場所に集まってきたのです。

ところが、イエスさまも弟子たちももうそこにはいなかった。そこで人々は、自分たちも小舟に乗ってガリラヤ湖の向こう岸に行き、そこでイエスさまを見つけると、こう言ったのです。「ラビ(先生という意味)、いつ、ここにおいでになったのですか」(25節)

ところが、イエスさまはこう言われるのです。「あなたがたがわたしを捜しているのは、しるしを見たからではなく、パンを食べて満腹したからだ。朽ちる食べ物のためではなく、いつまでもなくならないで、永遠の命に至る食べ物のために働きなさい」(26~27節)

大勢の群衆がイエスさまを求めて来たのは、「パンを食べて満腹したから」。でも、イエスさまは「しるしを見る」ことをお望みになり、お求めになっておられるんだよね。「パンを食べて満腹する」というのは、いつかはなくなってしまう、過ぎ去ってしまう出来事の表面を求めること。だけど、「しるしを見る」というのは、出来事の奥で働かれる神さまのいのちに出会う、神さまのいのちに入るということなんじゃないかな。「しるし」という言葉は、「奇跡」とも訳されることのある言葉です。

松任谷由実さんってシンガー・ソングライターをご存じですか。昔は荒井由実って言ったのですが、私は八王子教会の主任司祭になった時、教会の斜め前に「荒井呉服店」というのがあって、それが松任谷由実さんの実家だと知らされた時、びっくりしました。荒井由実さんは昔、八王子教会の幼稚園に通っていたそうです。教会の聖堂の中で、神父さまや先生たちと一緒に、毎日、みんなでお祈りをしていたのだと思いますよ。

荒井由実さんが作った曲の中に、「奇跡」っていう言葉を正しい意味で使っているなあと思う曲があるんです。みなさん、ご存じかな。リアルタイムにはご存じないと思うけれど、ジブリの映画で「魔女の宅急便」というアニメがあって、その中で「やさしさに包まれたなら」という曲がテーマソングとして使われました。それでみなさん、ご存じなのではないかな。

心のカーテンを開いて、目に見える静かな木洩れ日のやさしさに包まれたなら、目に映るすべての出来事はメッセージ。心を開き、やさしさに包まれたなら、目に映るすべての出来事を通して、向こうから語りかける言葉がある。それに出会うことが、大人になっても起こる「奇跡」だと、荒井由実さんは言っておられるのだと思います。

荒井由実さんが言われる「奇跡」という言葉づかいは聖書的に正しいんです。私たちも毎日たくさんの、いろいろな出来事に出会っていますでしょう。心を閉じていたら、出来事の表面だけを通過してしまうかもしれない。でも、心を開いて、その出来事を通して、その出来事の向こうで働きかけてくださるお方に出会う、その時、「奇跡」が起こります。出来事の奥で、神さまが働きかけてくださっている。そのことに出会うことを「奇跡」と言うんだよね。

そのように「出来事の奥にある意味に出会うように」というのが、今日の福音を通してイエスさまが教えてくださっていることなのだと思います。

これまで、みなさんの間に、自分を励まし、そして支えてくれる優しい言葉がたくさんあったでしょう。それは誰かが書いた手紙だったかもしれないけれど、その奥で神さまがお働きになったと思いませんか。そう思ってはいけませんか。

また、自分の中から人に向かう優しい言葉が出ていった時、自分の中で共にいてくださる神さまが働いてくださったと思いませんか。そう思ってはいけませんか。いいのだと思いますよ。どうぞ、最後まで今日の日の1日を大切に過ごさせていただくように、一緒にお祈りをしたいと思います。

ミサは、神さまからのプロポーズです。求愛ですよ。求めて求めて、何とか私たちと一つの時となり、結ばれたいのが神さまというお方。そのためにご自分の体を私たちに差し出されるのです。「私が命のパンである」。一緒にお祈りをしましょう。

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