神さまが共におられる神秘(25)稲川圭三

「私のすべてはあなたのものです」

2015年11月8日年間第32主日
(典礼歴B年に合わせ3年前の説教の再録)
この貧しいやもめは、だれよりもたくさん入れた
マルコ12:38―44

私はこの1週間ず~っと考えていました。

「一人の貧しいやもめが来て、レプトン銅貨二枚、すなわち一クァドランスを入れた」(マルコ12:42)。今のお金で100円くらいの金額のようです。でもそれは、その人が持っていた生活費の全部でした。

人に「入れろ」と強制されたわけではありません。自分のところに取っておくこともできたはずです。でも、入れてしまった。だから私はずうっと、「なぜこの貧しいやもめは生活費の全部を入れてしまったのか」と考えていました。

ところで「やもめ」とは、夫を亡くした人のことです。社会的弱者の代表のような存在です。やもめとなったこの人は、人からの施しや助けによって日々を生きていく人だったのだろうと考えられます。

この貧しいやもめがどうして全部入れてしまったのか、ず~っと考えていて、これが初めてのことではないような気がしてきました。

この人はきっと、自分のいのちの全部を神さまが支えてくださっていることを日々受け取っていたのではないかと思います。自分がやもめになってしまったことも、自分が今まで生きてこられたことも、「みんな神さまからの助けで自分が生かされているのだ」と分からせられて生きていたのではないでしょうか。それで、自分の持っている生活費の全部を、自分を支えてくださっている神さまにおゆだねしたのです。

「生活費」と訳されている言葉には、ギリシア語で「ビオス」という単語が使われています。そのもともとの意味は、生活とか生涯、そういう人間のいのちの全体です。それを支えるものという意味で「生活費」と訳されています。

「生活費の全部を入れた」(44節)とありますが、きっとこの貧しいやもめは、自分のいのちの全部を支えてくださっている神さまに、自分の「生活の全部」を信頼して、そこにポンと投げ入れたのではないでしょうか。「私のすべてはあなたのものです」。レプトン銅貨2枚は、貧しいやもめのそんな祈りではないかと思います。

ところで、今日の第1朗読はひどい話だと思いませんでしたか。食べるものがほとんどなく、「あとは死ぬのを待つばかりです」(列王記上17:12)と言うやもめに預言者エリヤが現れて、「まずそれ(残っている粉)でわたしのために小さいパン菓子を作って、わたしに持って来なさい。その後あなたとあなたの息子のために作りなさい」(13節)と言うのですから(笑)。

でも、「恐れてはならない」とエリヤは言いました(同)。「主が地の面に雨を降らせる日まで、壺(つぼ)の粉は尽きることなく、瓶(びん)の油はなくならない」と言うのです(14節)。そして、そのやもめはそのとおりにしました。その結果、そのことを通して、本当に自分のいのちを支えてくださるお方と出会わせていただいたのです。

今日のやもめは、誰かにそんなひどいこと(笑)を言われたわけではありません。自発的にお献(ささ)げしています。きっと今までにも、「何で自分にこんなことが」と思うようなことや、列王記の出来事のように理解できないこともあって、でもその中から、「ああ、自分のいのちを支えてくださっているお方がいる。このお方が私の全部を支えてくださっている。すべてを良くしてくださっている」という出会いがあり、そのお方への信頼と感謝で「自分の生活」「いのちそのもの」をそのお方の中におゆだねになったのではないでしょうか。

イエスさまはその様子を見て、弟子たちを呼んだのです。そして、「この女の人を見ないか。本当に神さまに信頼している人ですよ」と教えたのです。どうしてイエスさまは弟子たちにこの女の人を見せたかというと、何かご自分と重なることがおありになったのではないでしょうか。

このあとイエスさまは十字架に向かって進まれ、十字架の上に引き渡されます。その時、ご自分の持ち物だけでなく、ご自分のいのちまで主である神さまに信頼して、そこに投げ入れてしまわれます。その神さまへの信頼を弟子たちにも教えたかったのかなあと思います。

今「どうしてこんなことが」と思うようなことが降りかかっている方もおられるかもしれません。それは、その出来事を通して、「目に見えるすべてを超えて、『永遠』というお方が支えてくださっている」という大切な出会いに招かれている時だといえるように思います。

自分のいのちを支えてくださっているお方に出会わせていただいたなら、そのことを忘れず信頼のうちに歩んでいけますように。自分の生活のすべてをそのお方にゆだねていきますように。人間のいのちを支えてくださる神さまが、今日も明日も死を超えて支えてくださる方であることに信頼を置き、お互いに支え合い、助け合って歩ませていただきたいと思います。

 






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