神さまが共におられる神秘(27)稲川圭三

キリストの支配は、愛の支配

2015年11月22日 王であるキリストの祝日
(典礼歴B年に合わせ3年前の説教の再録)
真理に属する人は皆、わたしの声を聞く
ヨハネ18章33b~37節

今日の福音の中でイエスさまは、ご自分を王だとおっしゃっています。しかしピラトが、「それでは、やはり王なのか」と言うと、イエスさまは、「わたしが王だとは、あなたが言っていることです」と答えられます(ヨハネ18:37)。

ピラトが「それではやはり王なのか」と聞いたのは、その前にイエスさまがこう言われたからです。

「わたしの国は、この世には属していない。もし、わたしの国がこの世に属していれば、わたしがユダヤ人に引き渡されないように、部下が戦ったことだろう。しかし、実際、わたしの国はこの世には属していない」(36節)

「わたしの国」というからには、イエスさまがその国の「王」ということになります。

「国」という言葉は、元のギリシア語では「バシレイア」という単語が使われています。イエスさまが「神の国」「わたし国」と言われる時に用いられます。この言葉は「支配」というくらいの意味です。

つまり、「私の支配はこの世からのものではない」とおっしゃっているのです。ただイエスさまは、ご自分が「支配するもの」であるとは認めておられます。

ところで、「王」と訳されている言葉は「バシレウス」で、「国」と訳されている「バシレイア」と同じ語根を持つ言葉です。そのためピラトは「それではやはり王なのか」と聞いたのです。

イエスさまが「わたしが王だとは、あなたが言っていることです」と言われた意味は、「あなたが考えているような王、支配者ではない」ということです。

しかし、イエスさまは支配する方です。

私たちは「支配」と聞くと、悪いイメージしかありませんから、何だか嫌な感じがしてしまいます。でも、「支配」という言葉自体に良いも悪いもありません。

外国旅行に行くとき、「その国は治安がいい」といいますが、それは、きちんと規律によって「支配されている」という意味です。それを悪いとは思わないでしょう。

さて、今日の福音の本題は、イエスさまの支配がどのようなものであるかということです。

「わたしは真理について証しをするために生まれ、そのためにこの世に来た」(37節)

真理とは何でしょうか。この世ではなく、永遠のいのちである神さまが私たちを愛して、私たち一人ひとりと共にいてくださることが「真理」です。

私たちは人を愛すると、その人と一緒にいたいと思うようになります。神さまは完全な愛で私たちを愛してくださっているので、私たちと一緒にいたいと思い、一緒にいてくださっています。

でも、私たちはその神の愛を受け取れません。神の愛よりも、「どうしてあんなことがあるの」、「それなら、どうしてこうならないの」と、目に見えるものに向かってしまいます。それゆえ、神さまが共にいてくださるという真理そのものに出会うことができません。

その私たちに、真理について証しをし、出会わせるために来てくださったのがイエスさまです。

イエスさまは、ご自分のうちに父である神が共におられることを受け取って生きてくださいました。そして、「あなたにも」「悪人にも」「善人にも」「正しい者にも」「正しくない者にも」神が共にいてくださることを認め、その真実を証しして、告げ知らせられました。それが「真理について証しするために生まれ、そのためにこの世に来た」という言葉の意味です。

そのキリストを私たちが受け入れるなら、キリストは私たちの中で生きてくださいます。そうすると、今度は人にも、「神があなたと共におられる」という真実を告げて生きる者になります。これが、王であるキリストの愛による支配です。

武力行使はいりません。恐怖によって人を強制するような支配ではありません。

依然として、人から脅されなければ良いことを行わないなら、私たちは誰に支配されているのでしょうか。キリストはそういう支配者ではありません。

「私と一緒に生きてくれませんか」。そう呼びかけて、私たちの心の扉を叩いておられます。そして、その呼びかけに応える者を根本から自由にしてくださいます。そういう愛による支配です。

今日、教会の暦の1年の終わりにあたり、「王であるキリスト」の祭日を迎えています。今日もキリストが「あなたと一緒にいたい」と、私たち一人ひとりの心の扉を叩いてくださっています。

そして、門を開けるなら、「私は生涯にわたってあなたと一緒に歩く」と約束してくださっています。そういう支配が、キリストの支配です。愛による支配です。私たちが愛をもって応えなければ実らせることのできない支配です。

「はい」と受け取らせていただいて、私たちも神の国のために働く者となれますように、ご一緒に心を新たにさせていただきたいと思います。

 






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