コラム

神さまが共におられる神秘(41)稲川圭三

 

出会いを通して働かれる神さまに祈る

1月7日に、今年の東京教区の人事異動が発表されました。私は4月1日付で、練馬にある東京カトリック神学院のモデラトール(神学生と共同生活をする神父)として赴任することになりました。私は麻布教会には2012年に着任したので、7年お世話になったことになります。

1月17日は、私の恩師の下山正義(しもやま・まさよし)神父さまの誕生日で、朝の祈りの中で黙想をしていた時、ふと「下山神父さまがいらっしゃらなかったら、私は生まれなかったに違いない」と気づきました。

私の母は曾祖父母の代からのカトリック信者でしたが、教会にはほとんど行っていなかったようです。その母が教会に足を運ぶようになったきっかけは、戦後間もなく観た1本の映画でした。「我が道を往く」というアメリカ映画の中に、ビング・クロスビーが演じる若い神父が登場し、その姿を見て憧れて、本所教会の司祭館を訪ねたのだそうです。母が21歳くらいのことです。

その時、真っ黒なスータンを着てドタドタと出てこられたのが、痩せぎすの下山神父さまでした。牛乳ビンの底のようなレンズのロイド眼鏡をかけた日本人の神父は、映画で見た神父とは似ても似つかぬ風貌で、とてもびっくりしたとのことです。それでも母は、下山神父さまが司牧する本所教会に通い、姉妹会に入って教会のお手伝いなどをしていたのでしょう。

1951年には、同じく本所教会の青年会に所属していた父と結婚することになりました。下山神父さまが結婚式を司式してくださり、両親の間から5人の子どもが生まれました。私はその4番目の子どもです。

司祭になって間もない頃、母と話す機会があって、教会に通うことになったきっかけや、司祭館の玄関に出てこられた下山神父さまが想像していた神父のイメージと全然違ってびっくりしたことなどを初めて聞きました。

そのとき、「お母さん、下山神父さん、どんな感じだったの」と聞くと、まったく予想しなかった言葉が母の口から出てきました。

「あのねえ、何というか、すごい魅惑的な目で人を見るんだよねえ。それで何というか、お父さんに出会うまでの間、へんな人にひっかかってしまったりすることがなくて、神父さんに守られていたというか、何かそんな感じだったねえ」

そしてその後、「下山神父さまという方に出会ってから、すべてが良いようになっていったんだよねえ」と、何かつぶやくようにポツリと言った母の言葉がとても深く印象に残りました。

今朝の黙想の時、ふとそのことを思い出しました。そして、母が教会に行き続けるようになったのも、父と出会って結婚することになったのも、みんな下山神父さまが関わっておられると気づいた時、「もし下山神父さまがいらっしゃらなかったら、私は生まれなかったに違いない」と思ったのでした。

その私は、下山神父さまから、「圭三、お前、神父になれ」と言われて神父になりました。小学校1年生の時と、3年生の時と、30歳ちょっと前くらいの頃に言われて神父になりました。2度目と3度目の間に20年も間があるのは、私が一度お断りしたからです。

高校2年生の夏、受験する大学と学部を決めるよう学校から指導を受けていました。そんなことを考えていた頃、心の中で、「神父さんになるっていうのはどうなの」という声がありました。私は、「神父さんというのは、もっと偉い人がなるものだから、自分には関係がない」とはっきりとお断りしました。それで、「神父さんでないなら、学校の先生になろう」と、なぜか即座にそう思い、教員への道を進むことになったのです。

大学に入って、あまり教会に行かない日々をへて、小学校の教員になって、社会の固い現実に直面した時、教会の教え、聖書の言葉が本当のことなのだと分かってきました。そして今まで、親が行くから一緒に行っていた教会に、自分の意志で通うようになっていきました。その頃から少しずつ、下山神父さんの言うことを素直に聞くようになっていったように記憶しています。

あるとき下山神父さまに、「今まで一度も神父さまの目をちゃんと見たことがありませんでした」と言ったことがあります。下山神父さまは驚いたように、「まさか!」と言われました。でも、本当なのです。もちろん神父さまの目を見たことは、今までたくさんあったはずです。でも、見ていても、いつも「自分」というこっち側にいて、神父さまの目の向こう側に、ただただ信頼して眼差しを向けるということがなかったのです。

これまで22年間の小教区での仕事で学んだのは「人のために祈ること」です。神学校でも学んだことを活かして、神学生のために、そして一人ひとりの人生の背景にある関わりのために、そしてそのすべての関わりのある霊であるいのちの皆さんのためにお祈りしたいと思います。そして、神学生が人のために祈る人になっていくように願い、祈りたいと思います。

今年2019年は復活祭(イースター)が例年になく遅く、C年の年間第8主日の説教が近年ないため、カトリック麻布教会の教会誌「こころ」2月号の巻頭言を編集して掲載しました(編集部)。

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