神さまが共におられる神秘(49)稲川圭三

平和・主があなたと共におられる

2016年4月3日 復活節第二主日
(典礼歴C年に合わせ3年前の説教の再録)
あなたがたに平和があるように
ヨハネ20:19~31

今日の福音の箇所は、「週の初めの日の夕方」(ヨハネ20:19)、つまり「復活の日の夕方」の出来事です。「弟子たちはユダヤ人を恐れて、自分たちのいる家の戸に鍵をかけていた」とあります。

弟子たちは3日前にイエスを十字架の上に見捨てて逃げてきてしまっていました。自分たちのどうしようもなさの中で、きっと自分の悪いところにしか目が行かなくなっていたのではないかと思います。

また、イエスを殺したユダヤ人が自分たちも殺しに来るかもしれないという恐れの中で、人の悪いところにしか目が行かなくなって、祈ることができない状況にあったのかもしれません。

考えることは自分のだめさ加減。そしてユダヤ人への恐れ。人が皆、怖く見えたかもしれない。そういうサイクルの中に入ってしまって、抜け出せなかったことと思います。

しかし、その内側に閉じこもった弟子たちの真ん中に復活のイエスが立って、「あなたがたに平和があるように」と言われます(21節)。聖書で「平和」は、「神さまが共にいてくださる」という神の真実のことです。そして手とわき腹を見せて、「私だよ、十字架の上で苦しみを受けて亡くなった私だよ」と言ってくださったのです。

弟子たちは主を見て喜びました。「あなたを見捨てて逃げたのに、あなたは私の中の悪ではなく、私の中におられる神のいのちを見てくださった」。そのまなざしに喜んだのです。

そしてイエスは重ねて言われます。「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす」(21節)。そう言ってから、彼らに息を吹きかけて言われました。「聖霊を受けなさい」(22節)

ヨハネの福音書は、旧約聖書の創世記のイメージの上に作られている書物であると言われています。創世記には、人間の創造について、「主なる神は、土(アダマ)の塵(ちり)で人(アダム)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった」とあります(創世記2:7)。

私たち人間は土から作られ、土に返っていくようなものです。始めがあり、終わりがあるものです。しかし、その中に神さまはご自分、すなわち、始めもなく終わりもない永遠のいのちを吹き入れられたのです。

イエスは十字架の上で、すべての人の中に神のいのちがあることを見て亡くなられました。「人間の中に神のいのちを見るまなざし」は、死んでも死にませんでした。それが復活です。

イエスは現れて、その復活といういのちとまなざしを弟子たちの中に吹き入れたのです。その息を吹き入れられた時、弟子たちの中にイエス・キリストのいのちが立ち上がり、そのお方と一緒に生きるいのちとなっていきました。

イエス・キリストのいのちは、「相手の中に神のいのちを見いだすまなざし」ですから、弟子たちはお互いにそのように見て生きるようになっていきました。これが今日の福音の、イエスが息を吹き入れて、人間を「新しい創造」にあずからせたという出来事の意味です。

「だれの罪でも、あなたがたが赦(ゆる)せば、その罪は赦される」(23節)

あなたがたが誰の中にでも神のいのちを見いだせば、その真実が実っていく。

「だれの罪でも、あなたがたが赦さなければ、赦されないまま残る」(同)

もしあなたが赦さないなら、すなわち相手の中に神のいのちがあることを見ないなら、その人はその真実に出会わないままになってしまう。それではいけないから「赦しなさい」というのがイエスさまの命令です。

その出来事があったとき、トマスは弟子たちの中にいなかったみたいですね。それでこう言っています。

「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない」(25節)

私たちはトマスと似ているのでしょうか。もし私たちがこう言うのだったら、トマスに似ていると思います。

「え、あの人の中に神さまのいのちがある? とんでもない。あの人のほうがこっちに来て謝って、『自分が間違っていた』と言って頭を下げない限り、そんなこと絶対認めない」

でも、イエスさまは違っていました。弟子たちの心の真ん中に立って「平和」と言われました。「神さまがあなたたちと共におられる」と教えられたのです。

私たちはそのお方の弟子なのです。ですから、もし今日、思いめぐらしてみて、「赦せない人」、「その人に神が共におられるなんて認められない人」、「認めたくない人」がいたならば、その人に「平和」と言い、その人の中に「神さまが共におられる」という真実を告げてくださるのが、私たちの師であり主であるキリストであることをよく思い起こさせていただきたいと思います。

 






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