神さまが共におられる神秘(76)稲川圭三

いるべきところに戻って、神さまと共に生きる

2016年10月30日 年間第31主日
(典礼歴C年に合わせ3年前の説教の再録)
今日はぜひ、あなたの家に泊まりたい
ルカ19:1~10

今日はザアカイという人の話です。この有名な話をひとことで言ったら、「人の子は、失われたものを捜して救うために来たのである」という話です(ルカ19:10)。「人の子」とはイエスさまのことです。

「失われた」と訳されている言葉は、もともとのギリシア語では「アポリューミ」という言葉が使われています。「本来あるべきところ、いるべきところから離れて弱ってしまう、滅びてしまう」という意味です。

私たちの「本来いるべきところ」とは神さまのところです。神さまが私たちと一緒にいてくださるというところです。でも、私たちはそこにいるよりも、目に見える相手の外側を見ては、傷つけたり、傷つけられたり、争い合ったりしているのかもしれません。

ですからザアカイの話は、「失われたもの」が「あるべきところ」に戻ってきたという話だと言えます。

ザアカイは徴税人の頭(かしら)だったので、そうとうお金持ちでした。きっとお金にものをいわせて、いい服を着、自分の目の前では人に悪口を言わせないよう、高圧的な態度をとっていたかもしれません。

ところが、イエスの噂(うわさ)を聞いたのです。罪人や娼婦と一緒に食事をして、同業者である徴税人の一人(マタイ)は声をかけられて弟子になったというではないか。いったいどんな人だろう。一目見てみたいものだ。そんな思いだったのでしょう。

それで、イエスを見るために、走って先回りし、いちじく桑の木に登った。(4節)

お金持ちはあまり走ったりしないものです。また、大の大人が木に登ったりしないかもしれない。でも、このときザアカイは、ふだん自分がいるところとは違うところに出てきてしまったかもしれませんね。

「イエスはその場所に来ると」と書いてあります(5節)。「その場所」とは、ふだん鎧(よろい)で身構えたように隙(すき)を見せなかったザアカイの、幼子のような心がふっと出てきてしまった「場所」のことです。

それをイエスさまは見逃しませんでした。そして、上を見上げて言われたのです。

「ザアカイ、急いで降りて来なさい。今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい」(同)

この表現は、「泊まらなければならない」という意味、神さまのご意志の「必然」を表すものだそうです。そして、「泊まる」という言葉は、聖書の中でキーワードです。ほかの箇所では「つながる」や「留まる」、「住む」とも訳されます。

イエスさまはザアカイをじっと見て、「今日は、ぜひあなたの家に泊まらなければならない」、「あなたの家に住まなければならない」、「あなたの中に私が住まなければならない」と思われて言われたのではないでしょうか。

ザアカイは喜んでイエスを迎えたのです。しかし、見ていた人々は、「あの人は罪深い男のところに行って宿をとった」と言って文句を言いました(7節)。陰口をきいたのです。

でも、「ザアカイは立ち上がって、主に言った」(8節)。この「立ち上がる」という言葉は、「復活する」という言葉です。ザアカイは立ち上がったと同時に、自分をそんなふうに見てくださったイエスのいのちが自分の中に立ち上がって、一緒の向きで生きるいのちなって、今度は人を見たのだと思います。

だから、「主よ、わたしは財産の半分を貧しい人々に施します。また、だれかから何かだまし取っていたら、それを四倍にして返します」と言ったのです(同)。それは、貧しい人々の中に神さまのいのちがあることを見たからです。

イエスさまは言われました。「今日、救いがこの家を訪れた」(9節)

ザアカイは「いるべきでないところ」から「いるべきところ」に戻ってきたのです。つまり、イエスが自分を見てくれたように、自分や人の中にも神のいのちがあることを見るところに戻ったのだと思います。

それを「救い」といいます。そして、それをしてくださるのはイエスさまなのです。私たちを、神さまが共にいてくださる尊い存在だと分からせてくださるのは、一緒に生きてくださるイエスさまです。だから「救い主」なのです。

今日、イエスさまは私たちと一緒にいて、一緒の向きで生きてくださっています。だから私も、いるべきところに戻って、「あなたと一緒に生きます」と言うとき、自分にも人にも神さまのいのちを認めて生きる者になります。

今日、聖体をいただくとき、キリストは「これは私の体、食べなさい」と言われます。「これを食べて、私はあなたと一緒の向きで生きるいのちになる。いいか」と言われて、「はい」「アーメン」と答えて食べるのが聖体拝領という交わりです。そういう招きに招かれていることを思いながら、ご一緒にこの感謝の祭儀をおささげしたいと思います。

 






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