新翻訳でヨブ記はどう変わる? 聖書事業懇談会で小友聡氏が講演

 

聖書事業懇談会が4月9日、山崎製パン企業年金基金会館・市川サンシティ(千葉県市川市)、10日、大阪クリスチャンセンターOCCホール(大阪市)でそれぞれ開かれた。「新共同訳」が1987年に発行されて30年余り、日本聖書協会から今年末に「聖書協会共同訳」が刊行されるが、この新翻訳事業についての講演を、翻訳者・編集委員である小友聡(東京神学大学教授、日本基督教団中村町教会牧師)、飯謙(神戸女学院大学総合文化学科教授)各氏が行った。

小友氏は千葉の聖書事業懇談会で9日、「『聖書協会共同訳』はどんな翻訳聖書?──ヨブ記など事例の紹介」と題して、自身の訳したいくつかの箇所から分かりやすく新共同訳との違いを語った。

まず、ヨブ記2章3-10節。

ヨブ記2章は、天上で神とサタンが言葉を交わし、地上のヨブに災いが下る場面です。ここには非常に張り詰めた雰囲気があります。神がサタンを呼ぶ際の「お前」(新共同訳)という言い方は、上下関係を前提としたきつい表現のため、これを避け、新訳では「あなた」としました。

3節と9節でヨブについて「無垢な」という訳語が新共同訳で用いられますが、この形容詞「ターム」は「完全な」という意味で、ヨブ記ではヨブの本質を示すキーワードです。新訳では「完全な」という訳語で統一されています。

また、新共同訳で「触れる」と訳される5節の「ナガア」は、本来的には「打つ」という意味です。5節の提案の成就である7節において、新共同訳「皮膚病にかからせた」は意訳であり、新訳では原文に即して「腫れ物で彼を打った」と訳されます(新改訳2017も同様)。

意訳という点では、6節の新共同訳「彼をお前のいいようにするがよい」、「命だけは奪うな」もまたそうです。新訳では、原文の息吹を尊重して「あなたの手に委ねる」、「彼の命は守れ」と訳されています。

この箇所では、9節でヨブの妻が語った言葉が波紋を生じさせます。新共同訳「神を呪って、死ぬ方がましでしょう」は、新訳では「神を呪って死んでしまいなさい」と訳されます。この「呪って」は、原文では実は「祝福して」です。不思議なことに真逆の言葉で表現されているのです。5節の「呪う」も同様で、原文は「祝福する」です。これは意図的な婉曲表現と説明できますが、両義的とも言えます。そこで、新訳では5節「呪う」と9節の「呪って」については注を付け、脚注で「直訳『祝福する』」、「直訳『祝福して』」と説明しました。

新共同訳と比べて、聖書協会共同訳では原文の息吹をきちんと伝える工夫がされています。訳文もより引き締まったものになっています。

続いて、コヘレトの言葉11章1-10節。

1970年代までは、著者コヘレトは世をはかなむ厭世主義者で懐疑主義者と見なされ、「コヘレトの言葉」は支離滅裂な論調で書かれているというような解釈がされていました。87年出版の「新共同訳」もそういう方向で翻訳されています。「コヘレトの言葉」全体が支離滅裂な格言の羅列と見なされ、小見出しも付けられないという判断がされたようです。実際また、私たちもそのように「コヘレトの言葉」を読んできました。

けれども、現在では、「コヘレトの言葉」は一貫した思想的論調の書として解釈されるようになりました。新訳もその線で訳されます。コヘレトは懐疑主義者なのではなく、将来がどうなるかわからないからこそ、逆に、今、最善を尽くし、とことんまでやりなさい、と言っているわけです。

コヘレトはすべてが「空しい」と考える厭世主義者では決してありません。ですから、ヘブライ語の「ヘベル」は、新共同訳のように「空しい」と訳されるより、口語訳のように「空」と訳されるほうがむしろ適切であって、新訳でもそう訳されています。コヘレトは現実主義者ですが、したたかで、終わりである死を前にしても前向きに考える傾向を持っています。

新訳は新共同訳よりも、原典に即してコヘレトの言葉の重要なニュアンスをきちんと生かし、そこから意味を汲み取ることができるような翻訳がされていると思います。

最後に、雅歌3章1-4節。

「夜ごと、ふしどに恋い慕う人を求めても/求めても、見つかりません」(1節)とあるように、新共同訳は「恋い慕う人」を「求める」という恋愛詩として表現しています。今日、雅歌は宗教性をまったく保持しない恋愛歌だと説明する解釈が一般的です。けれども、新訳はあくまで宗教性を重視し、「夜ごとに寝床で私の魂の愛する人を探しました」というように、「私の魂の愛する人」を「探す」という訳文にしました。

「私の魂の愛する人を探しましょう」(2節)、「わたしの魂の愛する人をあなたがたは見かけましたか」(3節)、「私の魂の愛する人は見つかりました」(4節)というように、「私の魂の愛する人」(口語訳では「わが魂の愛する人」)の繰り返しを省略せず、原典どおりに訳しています。これについては、口語訳に戻ったという印象を持つ人もいるでしょう。礼拝で朗読されるに適した訳文にしようとすると、確かに口語訳も無視することはできません。

この箇所では、「探す」という動詞が4回繰り返され、「見つける(=見かける)」という動詞は5回繰り返されます。雅歌の著者はいわば言葉の追いかけっこをしているのですが、その原文の息遣いをそのまま日本語で表現する努力がされています。

ちなみに、新共同訳の「ふしど」(1節)は文語で分かりにくいため、新訳では「寝床」としました。

聖書事業懇談会は、日本聖書協会による情報交換の場として、聖書普及の現状を報告し、さまざまな立場からの意見や忠言を聞くため、2014年から毎年春に実施している。そこでは「聖書協会共同訳」の翻訳者・編集委員の講演により、新しい翻訳が従来の邦訳とどう違うかを知ることができる。参加無料だが、事前登録が必要で、定員は120人。

初回からの六つの講演を収録した『聖書事業懇談会講演録1』(日本聖書協会)は昨年末に刊行された。講師は石川立(同志社大学神学部長、同大学大学院神学研究科長・教授)、津村春英(大阪キリスト教短期大学名誉教授、同志社大学神学部嘱託講師)、樋口進(学校法人夙川学院院長・宗教主事、夙川学院短期大学特任教授)、柊暁生(元南山大学人文学部教授)、阿部包(藤女子大学特任教授・名誉教授、同大学キリスト教文化研究所所長)、小友聡各氏。続巻となる『聖書事業懇談会講演録2』は今年8月頃刊行予定。

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