日本カトリック映画賞は「ブランカとギター弾き」の長谷井宏紀氏

 

第42回日本カトリック映画賞(SIGNIS JAPAN=カトリックメディア協議会=主催)の授賞式・上映会が5月12日、なかのZERO大ホール(東京都中野区)で開かれた。今回受賞したのは長谷井宏紀(はせい・こうき)氏(「ブランカとギター弾き」)、特別賞は松本准平氏(「パーフェクト・レボリューション」)。会場には約1000人が集まった。

長谷井宏紀氏=5月12日、なかのZERO大ホール(東京都中野区)で

「ブランカとギター弾き」は、フィリピンを舞台に、ストリートチルドレンの少女と盲目のギター弾きとの心の交流を描いた作品。日本人監督として初めてベネツィア・ビエンナーレ&ベネツィア国際映画祭による全額出資を得て製作されたイタリア映画だ。ヨーロッパとフィリピンを中心に活動を続けてきた長谷井監督にとって長編監督デビュー作でもある。海外でも複数の映画賞が贈られ、日本でも、将来性のある新人監督に授与される「新藤兼人賞」を昨年12月に授賞したばかり。

「ブランカとギター弾き」チラシ©2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

「見捨てられた人々が生きていく美しさと、人同士が出会う尊さを、真実味溢れる演出とみずみずしい映像で描いた優れた作品であり、人々が孤立していく現代社会にあって、人間同士は繋がれるという希望に満ちた映画」というのが受賞理由。長谷井監督は、「出演者とスタッフが一緒に楽しく作った映画。多くの人に見てもらえることはこの上ない喜びであり、受賞は光栄なこと」と語った。

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授賞式後、長谷井監督と晴佐久昌英神父(SIGNIS JAPAN顧問司祭)との対談が行われた。

長谷井監督と晴佐久昌英神父(SIGNIS JAPAN顧問司祭)との対談=5月12日、なかのZERO大ホール(東京都中野区)で

数年前、短編映画の撮影をしていた時、マニラのキアポ教会の地下道でギターを弾いていた流しの音楽家ピーター・ミラリに出会い、彼を思いながらこの脚本を書いたという。その後、ピーター自身に出演してもらいたいと、2カ月かけて彼を探し出した。

ピーターは生まれながらの盲目で、8歳の時に両親を亡くし、そのまま一人で生きてきたが、同作品がベネツィア国際映画祭で上映された3日後に召天した。映画のクレジットの最後には、「ピーターの魂はこの映画とともに世界を旅している」と流れる。「撮影最終日の前日にピーターから手紙が届きました。『君は初めての外国の友達。君と出会えたおかげで役者を経験できてとても嬉しかった。これからも神が健康と幸福を導いてくれるから大丈夫だよ』とそこには書いてありました」と長谷井監督。

©2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

「この映画、リアルなのか、ファンタジーなのか、特別な力が働いている作品だと思います」と晴佐久神父が問いかけると、長谷井監督も、「僕もそういう奇跡のようなことで毎日キラキラしていたので、本当にいい時間を過ごさせてもらったと思っています」と答えた。そして、路上で行ったキャスティングの出来事や、子供たちの思いがけない才能に驚きながら過ごしたフィリピンでの撮影の日々に思いを馳せた。

長谷井監督と晴佐久昌英神父(SIGNIS JAPAN顧問司祭)との対談=5月12日、なかのZERO大ホール(東京都中野区)で

続いて晴佐久神父が、フィリピンのストリートチルドレンに注目した理由を尋ねると、長谷井監督は、最初に当地を旅した時、ゴミの山で生きている子供たちと会った時のことを語った。

「その時ちょうどアイスクリーム屋が来たので、買ってあげようと思ったら、50人くらい子供が集まってくるんですね。でも、その中の8歳くらいの子供が『宏紀のは俺がおごるよ』って言うんです。年齢とか関係ない、人同士の交流というか、子供たちの姿に素晴らしいものを感じ、それを映画にしたいと思いました。

僕たちは生活をする中で、いろんなことを諦めています。『社会ってこんなモノだ』みたいに。でも、子供たちの中にはとても光る美しいものがあって、その彼らの視点で社会を見た時に伝えられるものは何かなと思ったのです。この映画は、路上に生きる子供たちの視点を借りて、力強く生きる子供たちと楽しんで作った映画なんです」

©2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

セルビア正教会で洗礼を受けている長谷井監督。「今後もいいものを人に知らせに、いいものをシェアしていくために自分は何をすればいいのかを問いかけていきたい。世界中のストレートチルドレンに目を向けると同時に、虐待に苦しむ日本の子供たちの実態にも迫っていければ」と今後の意気込みを語った。晴佐久神父が、「子供たちの本当の幸せを訴えるのが監督の1つのテーマ?」と尋ねると、「そうです」と力強く答えた。

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大阪から来たというカトリック信徒の女性は、「映画を観て心があたたまった。主人公の女の子の表情に癒された」と語った。

日本カトリック映画賞は、前々年の12月から前年の11月までに公開された日本映画の中で、カトリックの精神に合致する普遍的なテーマを描いた優秀な映画の監督に毎年贈られるもので、42年の歴史を持つ。

 






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