「いま米国は癒やす時」 バイデン氏勝利演説に引用された聖書と賛美歌

米大統領選で当選を確実にした民主党のジョー・バイデン前副大統領(77)は7日夜(日本時間8日午前)、地元デラウェア州ウィルミントンで次期大統領として初の演説をし、勝利宣言をした。その翌日の日曜日午前中、カトリック信徒として史上2人目の大統領(最初はジョン・F・ケネディ)となるバイデン氏は、同州グリーンビルにあるブランディーワインの聖ヨセフ教会のミサにいつものように家族と出席している。

(写真: Michael Stoke)

その後、通りの向こう側にある教会墓地を訪れた。そこには両親と最初の妻と娘、息子が埋葬されている。バイデン氏は1972年に上院議員として当選した翌月、妻と幼い娘を自動車事故で失い、2015年には、デラウェア州の元司法長官だった息子ボーを脳腫瘍のため、46歳で亡くしている。この過去の苦しみに対してバイデン氏は、「信仰は暗闇の中でこそ輝く」というキルケゴールの有名な一節を引用するのが常だ。

Biden visits graves of his late son, daughter and first wife

 

バイデン氏は勝利演説で次のように聖書を引用した。どんな文脈で使われたかが分かるように、その前のところから紹介しよう。

トランプ大統領に投票した皆さんは今夜、失望しているでしょう。私も何回か選挙で負けたことがあります。しかし、今は互いにチャンスを与え合いましょう。とげとげしい言葉を使うのはやめる時です。冷静になる時です。もう一度互いに向かい合う時です。もう一度互いに耳を傾ける時です。前進するために、互いを敵と見なすことをやめなければなりません。私たちは敵ではありません。米国人なのです。

聖書はこう教えています。「すべてに時機がある。建てるに時があり、収穫するに時があり、植えるに時があり、癒やすに時がある」。いま米国は癒やす時なのです。

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And to those who voted for President Trump, I understand your disappointment tonight. I’ve lost a couple of elections myself. But now, let’s give each other a chance. It’s time to put away the harsh rhetoric. To lower the temperature. To see each other again. To listen to each other again. To make progress, we must stop treating our opponents as our enemy. We are not enemies. We are Americans.

The Bible tells us that to everything there is a season – a time to build, a time to reap, a time to sow. And a time to heal. This is the time to heal in America.

クリスチャンの間では有名な「コヘレトの言葉」の一節だ。コヘレトの言葉は「伝道の書」(口語訳)とも呼ばれ、旧約聖書の前半を占める律法や歴史書と、後半を占める預言書に挟まれた、ほぼ真ん中に位置する詩歌書(知恵文学)の一つ。コヘレトは「集会で語る者」を意味し、冒頭に「ダビデの子、エルサレムの王、コヘレトの言葉」(1:1)とあることから、著者はソロモン王であると見なされてきた。バイデン氏は多少アレンジしているが、元の聖句はこうだ。

天の下では、すべてに時機があり、すべての出来事に時がある。生まれるに時があり、死ぬに時がある。植えるに時があり、抜くに時がある。殺すに時があり、癒やすに時がある。壊すに時があり、建てるに時がある。(3:1~3)

つまり、神のなさることはあまりに大きすぎて、人間には理解できないことが多いが、一切のことの背後には神の働きがあると認めるということだ。

カマラ・ハリス(写真:Kamala_Harris_official_photo)

さて、米史上初の女性副大統領に選出されたカマラ・ハリス氏(56)については次のように紹介した。

先ほど、ここで話した素晴らしい副大統領、カマラ・ハリス氏と一緒に仕事ができることを光栄に思います。彼女はこの国で(副大統領に)選ばれた最初の女性、最初の黒人女性、最初の南アジアにルーツのある女性で、最初の移民の娘です。

ハリス氏は、カリフォルニア州バークレーの、大多数がアフリカ系米国人の地域で育った。インド出身の母親がカリフォルニア大学バークレー校で学んでいた時、大学院生でジャマイカ出身の父親と結婚。両親とも公民権運動で熱心な活動を行い、ハリス氏はその運動の言葉を聞いて育ち、母親はキング牧師と面会したこともあるという。また、幼い頃はバプテスト教会の聖歌隊で妹と歌っていた。

ハリス氏は元検事で、カリフォルニア州司法長官などを経て、2016年の上院選で初当選し、現在1期目。議会でトランプ大統領の孤立主義的移民政策などを厳しく批判するなど若手のホープだ。

バイデン氏に先立ってスピーチしたハリス氏は、次のように語った。

私が副大統領になる初めての女性かもしれませんが、最後ではありません。すべての幼い女の子が、今夜この場面を見て分かったはずです。この国は可能性に満ちた国であると。

バイデン氏は演説の最後に、賛美歌の歌詞を引用している。

選挙の最後の数日、私自身と家族、特に亡くなった息子ボーにとって多くの意味を持つ賛美歌のことを考えるようになりました。それは、私を支えてくれ、また米国を支えていると私が信じる信仰について表現しています。

また、今年襲った残酷なウイルスで命を落とした23万もの米国人の家族に対して、この賛美歌は慰めと癒やしをいくらかでも与えてくれると願っています。私の思いは皆さん一人一人と共にあります。願わくは、この賛美歌によってあなたも癒やされますように。

「彼(神)はあなたを鷲(わし)の翼の上に導き、夜明けの息吹の上で支え、太陽のように輝かせ、御手(みて)の中で抱く」

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In the last days of the campaign, I’ve been thinking about a hymn that means a lot to me and to my family, particularly my deceased son Beau. It captures the faith that sustains me and which I believe sustains America.

And I hope it can provide some comfort and solace to the more than 230,000 families who have lost a loved one to this terrible virus this year. My heart goes out to each and every one of you. Hopefully, this hymn gives you solace as well.

“And He will raise you up on eagle’s wings,

Bear you on the breath of dawn,

Make you to shine like the sun,

And hold you in the palm of His Hand.”

On Eagle's Wings

 

この「鷲の翼(On Eagles’ Wings)」は1970年代に作られた比較的新しい曲で、米国のカトリック教会のミサの時だけでなく、プロテスタント教会でも使われるが、特に2001年の同時多発テロの犠牲者の葬儀で歌われることが多かった。モチーフになっているのは、クリスチャンにはよく知られているイザヤ書の言葉だ。

主を待ち望む者は新たな力を得、鷲のように翼を広げて舞い上がる。走っても弱ることがなく、歩いても疲れることはない。(40:31)

ところで、バイデン氏が来年1月の大統領就任式で宣誓する時に手を置く聖書は、1893年以来、彼の家庭で代々使ってきたカトリックの英語聖書ドゥアイ・リームズ聖書を使用すると考えられる。ただ、バイデン氏が聖書を引用する時には、英語圏で最も普及している現代的な英語聖書、NIV(New International Version)を使っている。

 






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