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樹木希林さんを支えた言葉「老いの重荷は神の賜物」 遺された100冊の中にあったキリスト教書とは

2018年に亡くなり、15日に3回忌を迎えた女優の樹木希林さん。大の読書家としても知られたが、希林さんは「余分なものは何も置かない」という生活をしていたため、所有する本も100冊と決め、次のように語っていた。

樹木希林さん(写真:Andriy Makukha)

「あたらしく気に入った本、手元に置きたくなった一冊がでてきたら、百冊のなかの一冊を、人にあげてしまうの。だから、いつも百冊」(椎根和『希林のコトダマ』芸術新聞社)

そして、最後まで遺(のこ)された100冊の中に1冊だけ、キリスト教の本があった。

「平凡パンチ」「popeye」「anan」に関わった編集者であり、「Hanako」など雑誌創刊の編集長を歴任した椎根さんは、希林さんと家族ぐるみのつきあいがあり、一周忌が終わった直後、娘の也哉子さんにその100冊の蔵書をすべて読ませてほしいと願い出る。そうして、それらの本を紹介しているのが上記の書籍だ。

希林さんの洋間の書斎には、机と椅子の後ろに、机と同じくらいの高さの書棚がしつらえられ、上下2段、蔵書の100冊が整然と収まっている。その上段の右端に近いところに置かれていたのが、土居健郎・森田明編『ホイヴェルス神父 日本人への贈り物』(春秋社)だ。

ヘルマン・ホイヴェルス神父はドイツ人宣教師で、第2代の上智大学学長を戦前に務め、戦後はカトリック麹町教会(聖イグナチオ教会)主任司祭としても働いた。教授と主任司祭を退任した翌年の1967年、44年ぶりに故郷ドイツに戻ったとき、友人から次のような詩を贈られる。

最上のわざ

この世の最上のわざは何?
楽しい心で年をとり、
働きたいけれども休み、
しゃべりたいけれども黙り、
失望しそうなときに希望し、
従順に、平静に、おのれの十字架をになう。
若者が元気いっぱいで神の道をあゆむのを見ても、ねたまず、
人のために働くよりも、けんきょに人の世話になり、
弱って、もはや人のために役だたずとも、親切で柔和であること。
老いの重荷は神の賜物。
古びた心に、これで最後のみがきをかける。まことのふるさとへ行くために。
おのれをこの世につなぐくさりを少しずつはずしていくのは、真にえらい仕事。
こうして何もできなくなれば、それをけんそんに承諾するのだ。
神は最後にいちばんよい仕事を残してくださる。それは祈りだ。
手は何もできない。けれども最後まで合掌できる。
愛するすべての人のうえに、神の恵みを求めるために。
すべてをなし終えたら、臨終の床に神の声をきくだろう。
「来よ、わが友よ、われなんじを見捨てじ」と。

この詩は、ホイヴェルス神父の著書『人生の秋に』(春秋社)所収の「年をとるすべ」という随筆の中で紹介されたもの。

この詩の1節をタイトルにした希林さんの著書『老いの重荷は神の賜物』(集英社)は、2012年暮れに行った講演を書き起こしたもので、希林さんは冒頭でこの詩の朗読をし、その出会いについて詳しく語っている。

希林さんは2003年に網膜剥離(もうまくはくり)で左目を失明し、05年には乳がんの手術で右乳房を全摘出。その後、腸や副腎、脊椎(せきつい)など30箇所にがんが転移していることが判明し、13年に「全身がん」と公表した。しかし手術は望まず、放射線による緩和治療を続けながら、亡くなる直前まで精力的に映画などへの出演を続け、数々の賞に輝いた。本書では、樹木さんが「全身がん」であることを告白しながら、がんを患うことへの思いを語っている。

 

講演のあった2012年に公開された映画「ツナグ」でも、主人公の祖母役を演じた希林さんがいつも口癖のようにつぶやくのがこの詩で、エンドロールでは希林さんの朗読を聞くことができる。辻村深月の原作にはない設定で、希林さん自身が「この詩を入れてほしい」と監督に申し入れたのだ。

生前、同じ文学座の先輩女優でクリスチャンの長岡輝子さんがいつも朗読しているのを希林さんが聞き、素敵な詩だなと気に入ったいう(長岡さん自身の朗読もCD化されている)。長岡さんは10年に102歳で召天したが、クリスチャンホームに生まれ、少年時代の宮沢賢治も出入りしていた盛岡浸礼教会(現在の日本基督教団・内丸教会)付属の幼稚園に通った。晩年には聖書の朗読活動にも力を入れ、その功績が認められてキリスト教功労者の表彰を受けている。

希林さんはインタビューでこう語る。

「知り合いの女優さんで100歳を超えて亡くなった長岡輝子さんは、最後、施設に入る時は、ご自分のコートと帽子、身の回りのものを入れる3段の小ダンスだけ。あれは見事だったわね」

そんな希林さんは、最期までホイヴェルス神父の本を手もとに置き、この「最上のわざ」を繰り返し口ずさんでいたのかもしれない。

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