【鬼滅のイエス】第二夜 煉獄さんとイエス様と『最後の誘惑』 MARO

前回は『鬼滅の刃』の舞台になった大正時代のキリスト教についてと、今もっとも熱い検索ワードの一つとなった「煉獄」についてお話ししました。今回はいよいよ『鬼滅の刃』の中身についてお話ししようかと思います。まずは映画で一気に国民的ヒーローになった煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)さんのエピソードから。今回もよろしくお付き合いください。

煉獄さんとイエス様と『最後の誘惑』

煉獄さんと『最後の誘惑』

ここから、ちょっと重要なネタバレがあるので、まだ劇場版『鬼滅の刃』を観ていない方は注意してください。

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はい、ではいきます。

作中、煉獄さんは鬼との戦いで命を落とすのですが、その死の直前に敵の鬼からある誘惑をされます。「ここで死ぬより、鬼になって生きないか?」ここでこの誘惑を受け入れて煉獄さんは鬼となり、主人公たちの強敵として立ちはだかる・・・なんて展開もストーリーとしては面白いかもしれませんが、もしその展開なら煉獄さんはこんなに人気者にはならなかったでしょう。彼はここでその誘惑を断り、「鬼として生きるよりも人として死ぬこと」を選んだんです。ここに彼の人間として、隊士としての矜恃(きょうじ)があり、それが多くの人の感動を呼びました。

このエピソードから、いくらかのクリスチャンは、特に映画好きのクリスチャンはある一つの映画を連想します。それはマーティン・スコセッシ監督が1988年に発表した『最後の誘惑』です。その映画はイエス様の十字架を描いたものなのですが、その作中では、悪魔が十字架の上のイエス様に「こんなところで死ぬよりも、愛する人と一緒に家庭を築いて幸せに暮らしなよ」と誘惑するんです。その誘惑に葛藤するイエス様でしたが、最終的には救世主としての自らの使命をまっとうすることを選びました。

イエス様は十字架の上で本当にこのような誘惑や葛藤に迫られたのか、この点が大きな議論を呼び、この映画には上映禁止運動も起こりました。しかしたとえこの映画を抜きにしても、イエス様は聖書に記されている「ゲツセマネの祈り」というシーンで、「神様、私は十字架につくの嫌です。できればなんとかして避けたいです。避けさせてください」と、まさにその誘惑のような葛藤を吐露しています。しかし最終的には「神様の意思であれば十字架であっても受け入れます」と、決然と十字架に向かって行きました。

その「誘惑」はフィクションではないんです

煉獄さんの話とイエス様の話、とても似ていますよね。そして、生きる死ぬまでは必ずしも行かないとしても、僕たちの人生にもそんな誘惑や葛藤はあります。「矜恃を捨てて栄えるか、矜恃を抱いて滅びるか」「プライドを捨てて出世するか、プライドを保って野に埋もれるか」その時に必ず「矜恃を保て」というのが正解とは限らないと思います。でもそんな葛藤があるからこそ、煉獄さんもイエス様も多くの人の心を動かすのでしょうね。

キリスト教の歴史の中では、多くの人が信仰のために命を落としました。「信仰を捨てて生きるか、信仰を保って死ぬか」と問われ、信仰を保って死んでいった人がたくさんいるんです。日本でも何度も信仰の迫害が行われましたから、そのようなことが起こっています。遠藤周作さんの『沈黙』がそのあたりのエピソードを知るには有名です。もちろん、そのように迫られて「信仰を捨てて生きる」ことを選んだ人もたくさんいると思いますし、その人たちが間違っていると責めることは誰にもできません。しかし映画の中で煉獄さんが迫られた問いは、決して映画の中だけのフィクションではなく、実際の世界で数えきれないほど起こった「ノンフィクション」でもあるのだということは、心に留めておきたいと思います。現在でも、キリスト教に限らず自らの信念のために「命を取るか、信念を取るか」と問われ、責められている人も世界にはたくさんいるんです。

・・・ちょっと話が重くなってしまいました。だって『鬼滅の刃』って、ストーリー自体がかなり重いんですもの。これをテーマにしたらどうしてもちょっとは重くなります。さて次回は僕の大好きなあの「猪の子」のお話をしようかと思います。次回もまたお付き合いください。

それではまたいずれ。

MAROでした。

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