「麗子像」のクリスチャン画家 東京ステーション・ギャラリーで「没後90年記念 岸田劉生展」

「没後90年記念 岸田劉生(りゅうせい)展」が東京ステーション・ギャラリー(東京・丸の内)で開催されている。10月20日まで。

「自画像」(1921年、泉屋博古館分館蔵)

代表作でもある愛娘・麗子(れいこ)の5~9歳までの姿を描いた「麗子像」シリーズをはじめ、風景画や静物画、東洋の美に目覚めた大正時代に描かれた日本画など、前期・後期合わせて150点以上の作品がほぼ制作年代順に展示されている。初期には、ゴッホなど、いわゆる後期印象派の影響を受け、激しいタッチと鮮烈な色彩による作品を発表していたが、その後、そうした表現に疑問を持ち、友人や知人を片っ端からモデルにして写実的な肖像画を描いたことから「劉生の首狩り」と呼ばれた時期もあるなど、劉生の画家としての変遷を時系列で辿(たど)ることができる。

「麗子微笑像」(1921年、上原美術館蔵)

劉生は、明治のジャーナリストである岸田吟香(きしだ・ぎんこう)の四男。眼病を患った吟香が、宣教医ヘボンのもとを訪れたことがきっかけで、ヘボンによる日本初の英語による和英辞典『和英語林集成』の編纂(へんさん)に携わることになった。劉生が14歳のときに相次いで両親を亡くし、父の遺言でキリスト教葬儀を行った数寄屋橋教会(現在の日本基督教団・巣鴨教会)の田村直臣(たむら・なおおみ)牧師から翌年、洗礼を受けた。劉生は熱心な信徒として日曜学校の教師を務めながら牧師を目指していたが、田村牧師に画家になることを勧められ、17歳で洋画家の黒田清輝(くろだ・せいき)に師事し、本格的に油彩画を学び始めた。

「田村直臣七十歳記念之像」(1927年、東京国立近代美術館蔵)

しかし20歳のとき、「キリスト教の教理が信じられなくなった」として教会から離れる。とはいえ、その後も、「天地創造」など聖書を題材にした複数のエッチング作品をはじめ、妻・蓁(しげる)に祈りをささげるようなポーズを取らせた「画家の妻」、36歳の時には田村牧師の古希を祝う「田村直臣七十歳記念之像」を描くなど、その38年の生涯においてキリスト教は最後まで劉生の中で大きな位置を占めていたと思われる。

東京ステーション・ギャラリー(東京・丸の内)

同美術館の学芸室長である田中晴子(たなか・はるこ)さんに話を聞いた。

「劉生の作品は、目指す芸術の方向によって作風がどんどん変わっていくため、初期から晩年までを追っていくと、非常にバラエティー豊かなんですね。今回の企画展では、肖像画や風景画など、劉生が試行錯誤しながら一つのテーマを集中的に高めていった様子をじかに体感していただけると思います。劉生が活躍していた時代にタイムスリップして、その時代ごとの個展を巡っているような感覚が味わえるのは、小展示室が多い当美術館ならではの楽しみ方といえます。

「画家の妻」(1915年、大原美術館蔵)

また、劉生は教会を離れていますが、その後も『画家の妻』や『静物(手を描き入れし静物)』などには、宗教画を連想させる服の色や、赤と青を象徴的に使った作品を描いていますし、日記には『神よ、ゆるし給(たま)へ』『神よ、感謝します』『神よ、守り給へ』など、神に向けた言葉も残されています。

「静物(手を描き入れし静物)」(1918年、個人蔵)

これは想像ですが、劉生は自分自身に問いかけるような時や高みを目指す時には、『神が見ている』という感覚や、何らかの高い存在を感じながら描いていたのかもしれませんね。本展では、自由に想像を巡らせながら、新たな発見やお気に入りの作品を見つけていただけたら嬉しいです」

会期:2019年8月31日〜10月20日
会場:東京ステーション・ギャラリー
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
電話番号:03-3212-2485
開館時間:10:00~18:00(金~20:00)※入館は閉館30分前まで
休館日:月(ただし9月16日、23日、10月14日は開館)、9月17日、24日
料金:一般1100円/高校・大学生900円/中学生以下無料

9月25日(水)からは後期として、水彩画、日本画を中心に41作品が入れ替わる。また、東京のほか、山口県立美術館(11月2日~12月22日)、名古屋市美術館(2020年1月8日~3月1日)に巡回予定。

 






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