【くめさゆりの DAY BY DAY】第1回 お義父さんの声の記憶 久米小百合

 

「クリスチャンプレス」を楽しみに読まれている皆さま、はじめまして。ミュージック・ミッショナリーの久米小百合(くめ・さゆり)と申します。

よくそのカタカナの肩書は何だと言われるのですが、「音楽宣教師」「音楽伝道者」という意味です。ただ日本では「宣教師」というとフランシスコ・ザビエルさんがイメージされ(笑)、「伝道者」と打ち込もうとしても「電動車(?!)」と変換されるほうが早いので間違いやすく、ここ数年、カタカナでいかせていただいております。

音楽好きな方、歌舞音曲(かぶおんきょく)はあまり好きでない方もいらっしゃると存じますが、ここではキリスト教の音楽、宗教演劇などにこだわらず、日常のよもやま話の中から神さまの粋(いき)な計らいと言いますか、ちょっとだけ心がほころぶようなことを見つけて書かせていただければ幸いです。どうぞよろしくお付き合いくださいませ。

さて、2020年という年はオリンピック・イヤーだったこともあり、「Tokyo2020」と語呂(ごろ)的に心地よいリズムで始まりましたが……。皆さまは、まだコロナ・ショックもないあの平和で暢気(のんき)なお正月の頃を覚えておられるでしょうか。

年明け早々、サスペンス・ドラマばりの逃亡劇がありましたね。大型の楽器ケースに身を隠しての国外逃亡など前代未聞で、しばらくは報道やワイドショーのトップニュースでしたが、もう遠い昔のように感じているのは私だけでしょうか。それからすぐにイランとアメリカの不仲から勃発(ぼっぱつ)した攻撃合戦、両国の平和を祈らずにはいられない日々が続きました。

その後を気にかけている間に、中国では新型肺炎の流行! 多くの人が罹患(りかん)しているという、その未知のウイルスがまさかのまさか、世界中の文化や経済を閉じ込めてしまうなんて、誰が思ったでしょう。そんなコロナ禍のどんよりした日々が続く晩春のある日、元気だった義父が心不全で帰らぬ人になってしまいました。

久米明(くめ・あきら)は新劇の役者、声優、またテレビや映像作品のナレーターとして親しまれた人でした。お茶の間のドラマでは医者や弁護士、大学教授など、どちらかというとインテリジェンスな役柄が十八番(おはこ)のようなイメージでしたが、実際、旧制の麻布中学校や東京商科大学(現・一橋大学)で学んだ義父の同級生の多くは財界や政界に進んだ人も多く、役者になった義父は奇異な存在でした。

あの独特な間をとった穏やかな話ぶりは、ふだん私たち家族とのたわいもない会話の時にも変わりませんでした。こんなエピソードがあるくらいです。

ある日、ファンの方が義父のオフィスに電話をかけてこられまして、義父が「はいはい、久米ですけど……」と受話器をとったところ、その方は「あら、本物よ! あの声だわ!」と言うなり喜んでそのまま切ってしまわれたそうです。

私の世代では一時期、タモリさんも義父の口調をモノマネされたりしたドキュメンタリー番組「すばらしい世界旅行」や、最近ではNHKさんの「鶴瓶(つるべ)の家族に乾杯」など、義父らしいナレーションで親しまれた番組を懐かしがってくださる方もおられます。

久米明『僕の戦後舞台・テレビ・映画史70年』(河出書房新書)

実は96歳の最後まで義父が通ったスタジオはNHKでした。体調が悪く、声が出づらい日もあり、少しのお休みをいただいた期間もありましたが、そんなとき義父を支えたのは、鶴瓶さんやスタッフの皆さんのあたたかい励ましのお声でした。「家族に乾杯」はやっぱり久米さんの声が良い。そう言ってくださる現場の皆さんに応えたい。誠実な義父の最後の想いだったと思います。

「声」はその人の人生をさらけ出す、衣装やメイクで隠せても「声」だけは隠せない、と義父から教わりました。声は言(ことば)ともいえるでしょうか。映画「十戒」の石板に刻まれる神の声、「天地創造」のノア(ジョン・ヒューストン)の吹き替え、そして「手塚治虫の旧約聖書物語」のナレーションなど、在りし日の義父の声を聴きながら、天国での再会を楽しみにしている今日この頃です。ステイホーム、もうちょっとかな……。

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