2000年の眠りから覚めたハスと、大賀一郎の信仰

 

2000年以上前の泥炭層から発見された種を発芽させた古代のハス、「大賀ハス」が全国で見ごろを迎えている。このハスを復活させた植物学者の大賀一郎(おおが・いちろう、1883~1965)は無教会のクリスチャンだ。

大賀ハス(写真:江澤祥行氏提供)

大賀は1951年、千葉市にあった東京大学検見川(けみがわ)厚生農場内の落合遺跡から発見されたハスの種を発芽させ、翌年、花を咲かせることに成功した。「大賀ハス」と名づけられ、54年、千葉県の天然記念物に指定された。93年には千葉市の花として指定されたが、ご当地キャラクター「ちはなちゃん」は大賀ハスの妖精をイメージしたものだ。現在、大賀ハスは千葉県内に限らず、全国各地に根分けされている。

大賀は岡山市にある農家の長男として生まれた。子どもの頃、神社の池に咲いているハスに興味を持ったのが、大賀とハスの出会いだ。

16歳の時、内村鑑三が主筆を務めていた「東京独立雑誌」を友人から借りて読んだ。内村の記事に強く心を打たれた大賀は、「岡山中学校(現在の岡山朝日高等学校)を卒業したら、内村が教師をしていた東京の第一高等学校に行きたい」と思うようになる。さらに内村の『後世への最大遺物』に感銘を受けた大賀は、その教えにますます傾倒し、同志社系の日本組合岡山基督教会で洗礼を受けた。

しかし、その頃の大賀家は困窮しており、母方の叔父が学費を工面してくれたおかげで、何とか一高に進学することができた。

千葉公園の大賀ハス(写真:江澤祥行氏提供)

上京後、一高で熱心に勉強しながら、日曜日には必ず内村が開いていた聖書研究会に通った。その頃、小山内薫や有島武郎、志賀直哉なども熱心に参加していた。

大賀が進路について相談したところ、内村はこう答えたという。「君はよく僕にハスの話をしてくれたじゃないか。ハスは、我々人間がどんなに知恵を絞っても決して作り出すことはできない。神様のみが創れるものだ。神様の創りたもう植物を勉強したらどうだろう」。その助言がきっかけで大賀は東京帝国大学理科大学の植物学科へ進むことに決めたという。

大学では思う存分、植物の研究に情熱を注いだ。卒論のテーマはアサガオだったが、大学院へ進むとハスの研究を本格的に始めた。相変わらず経済的な困窮は続いていたが、非常勤の教師や宗教雑誌の編集などをしながら、何とか生活をしていた。

やがて、一緒に教会学校の教師をしていたうた子さんと結婚。第八校等学校の生物学教師になった大賀は、名古屋に移り住み、自宅に学生を招いて聖書研究会を開くなど、熱心に伝道にも励んだ。

大賀一郎と大賀ハス(「時事世界」1952年9月号、時事世界社より)

その後、満州に渡り、学校の教師をしながら、近所の女性からハスの種を譲り受けたのをきっかけに再びハスの研究を始めた。その種はおよそ300年前のものとされ、これを発芽させて花を咲かすことができれば、ハスが他の植物に比べて長命だということが証明される。大賀は試行錯誤を繰り返し、ついにハスの発芽に成功した。帰国した大賀は、大賀ハスの発芽にも成功。翌年、花びらが開き、ハスは2000年の眠りから覚めたのだ。

しかし、その5年後、妻のうた子さんが天に召された。「うた子とはまたキリストのいらっしゃる天国で会える。今の私にはハスがある」と言って、いっそうハスの研究に没頭したという。

それから9年、大賀は82歳でこの世の生涯を閉じた。死の3日前には、「光の中へ」と書き残している。

大賀ハスは、日の出とともに花が開き始め、午前8時~10時頃、満開になる。7月いっぱい楽しめるという。

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