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クリスマス・シーズンにお勧めのCD10選 加藤拓未

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キリスト教の暦でアドヴェント(待降節)は、新たな1年のはじまり。キリストの到来を覚え、その降誕を祝うこの時期は、古来よりさまざまな音楽で彩られてきた。バッハをはじめドイツの宗教音楽の研究を専門とする筆者も、クリスマスのために書かれた音楽には毎年、新鮮な感動を覚え、魅了されている。

そこで、これまで私が出合ってきたクリスマス音楽のなかで、読者の皆様にもお勧めしたいCD10点を選んでみた。

少年合唱によるキャロル演奏2枚

クリスマスを祝う音楽としてすぐに思いつくのは「キャロル」ではないだろうか。キャロルといえば、少年合唱団の愛らしく澄んだ歌声。そう思ったとき、私の心に原風景としてあるのは「イギリスの少年合唱団」だ。少年の頃、私はイギリスの田舎でクリスマスを過ごした経験があるため、どうしてもまっすぐで清潔なブリティッシュ・サウンドの少年合唱を好んでしまう。

その代表格と言えば、ケンブリッジ大学のキングス・カレッジ聖歌隊。特にクリスマス・イブに行われる大学チャペルの礼拝では、いくつものクリスマス・キャロルが彼らの美声によって歌われ、毎年、その模様はBBC放送で世界的に放映されている。最初にお勧めしたいCDは彼らの「Christmas at King’s」だ。

ウィーン少年合唱団の歌声は美しいが、私には少し「甘い響き」に感じられる。その甘さは、ウィーンの音楽伝統によるものかもしれない。私はもう少しストイックな響きが好みなので、少年合唱によるキャロルのCDとしてもう1枚あげるならば、バッハの聖地ライプツィヒの聖トーマス教会少年合唱団としたい。やや硬質で実直な歌いぶりは、バッハのような音楽を奏でるにはふさわしいのではないか。特に東ドイツ時代にカントルをつとめたハンス=ヨアヒム・ロッチュ(1929~2013年)指揮による演奏の「Weihnachten Mit Dem Thomanerchor」は水準も高く、敬虔(けいけん)な想いが伝わってくるようだ。

大人の合唱団によるキャロル演奏2枚

次に、大人の合唱団によるクリスマス・アルバムを紹介したい。

ひとつは、ボストン・セントポール・シスターズの「ラブ・イズ・ボーン」。これは、ボストン近郊にあるセントポール修道院の修道女による合唱団の演奏だ。その非常に澄んだ美しい声は、聴き手を優しく包みこむかのよう。聴くたびに深く心に響いてくる。

そしてもう1枚は、日本が世界に誇るプロフェッショナル合唱団バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の最新CD「きよしこの夜」。BCJの首席指揮者である鈴木優人氏が編曲したキャロルと、18世紀フランスの作曲家ダカンのオルガン曲(ノエル)が収録されている。鈴木氏の作曲家として手腕が冴(さ)え、いずれの編曲にも、原曲の美しさに新たな魅力が添えられている。BCJによる合唱の絶妙なアンサンブルの素晴らしさもぜひ味わっていただきたい。

個別のアルバム2枚

つづいて、個別の演奏家によるアルバムを紹介したい。

今から約30年前、1986年夏に流れたテレビCMでソプラノ歌手キャスリーン・バトルの存在を知った方も多いのではないか。私も、ブラウン管から流れるヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」を歌う美声に一瞬にして虜(とりこ)になった。87年に発表されたクリスマス・アルバム「きよしこの夜/バトル──クリスマスを歌う」では、彼女の清純可憐な歌声の魅力が存分に堪能できる。その押しつけがましくない清潔な歌い口は、いま聴いても好ましく思える。

もう1枚は、リード・オルガン奏者、松原葉子氏によるCD「甘き喜びのうちにIn dulci jubilo」。このCDは、彼女が日本基督教団・富山鹿島町教会の礼拝で演奏しているレパートリーのうち、アドヴェント(待降節)からクリスマス(降誕節)のための作品を収録したもの。リード・オルガンは最近あまり見かけられなくなったこともあり、過去の楽器と見られがちだが、松原氏の演奏を聴いてみてほしい。その豊潤な響きと説得力あふれる演奏は、きっと私たちのそうした思いこみを揺るがすだろう。

クリスマスのための宗教曲4枚

最後に、クリスマスのための4つの宗教曲を取り上げたい。

まず、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685~1759年)の「メサイア」(1741年作曲)。年末によく演奏されるのは、全3部構成のうち第1部で「救世主の降誕」の様子が描かれるからだろう。CDは無数にあるが、やはり歌詞が英語である以上、イギリスの団体による録音に分がある。なかでも、少年聖歌隊を合唱に起用したクリストファー・ホグウッド指揮の録音は、清潔なブリティッシュ・サウンドで整えられており、未聴の方にはぜひお勧めしたい。

次に、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685~1750年)の「クリスマス・オラトリオ」BWV248。ドイツでは毎年、待降節に入るといっせいに各地の教会で「クリスマス・オラトリオ」が演奏され、冬の風物詩となっている。この作品では、福音史家(テノール)がキリストの降誕物語を語り、それに対して独唱曲や合唱曲が応答してゆく構成となっている。お勧めのCDとしては、現在、バッハ協会会長であるジョン・エリオット・ガーディナー指揮の録音をあげたい。独唱・合唱・器楽といずれも最高の水準にあり、しかもそれら三者が見事に調和している。

3番目は、ハインリヒ・シュッツ(1585~1672年)の「クリスマス物語」SWV435。シュッツは17世紀に活躍し、「ドイツ音楽の父」と呼ばれる重要な音楽家だ。「クリスマス物語」は晩年の1660年に書かれた作品で、バッハのオラトリオと同様、福音史家(テノール)が降誕物語を語り、物語の進展とともにさまざまな楽器の音色が加わって、作品に彩りを添えていく。手作りのようなあたたかさに満ちた演奏となっているフリーダー・ベルニウス指揮による録音をお勧めしたい。

最後の4点目は、17世紀後半のパリで活躍したマルカントワーヌ・シャルパンティエ(1643頃~1704年)の「真夜中のミサ」。これは、1690年代にクリスマス礼拝のために作曲されたもので、当時の人びとの間で愛唱されていた「ノエル」というクリスマス民衆歌のメロディーがふんだんに取り込まれている。そのため、ミサ曲自体がまるでノエルの「ベスト・アルバム」のようになっており、おそらく当時の会衆は「知っているメロディー」が次から次へと聴こえてきて、大いに楽しんだことだろう。ノエルのメロディーは現代の私たちにも親しみやすいものだが、それを生き生きと表現したマルク・ミンコフスキ指揮の録音を推薦盤としたい。

加藤拓未(かとう・たくみ)

芸術学博士。国立音楽大学大学院(音楽学)修了。明治学院大学大学院博士後期課程修了。2006〜07年、ハンブルク大学音楽学研究所留学。専門は、バッハを中心とする西洋音楽史(特に受難曲やオラトリオの歴史)。11年、テレマンの受難曲に関する研究で博士号。NHK・FM「バロックの森」「ベスト・オブ・クラシック」やNHK・BS「クラシック倶楽部」に解説者として出演し、18年4月からは、NHK・FM「古楽の楽しみ」案内メンバーを務める。合唱団「バッハ ゲゼルシャフト東京」代表。明治学院大学キリスト教研究所協力研究員。著書に『バッハ・キーワード事典』(春秋社)などがある。日本福音ルーテル大森教会会員。

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