【インタビュー】上智大学神学部長・川中仁さん ノンクリスチャンにも開かれた女子学生の多い神学部(前編)

 

上智大学神学部(東京都千代田区)は、日本で唯一のカトリック神学部。2017年から神学部長をしている川中仁(かわなか・ひとし)さん(57)に話を聞いた。

──イエズス会に入会された頃のお話を教えてください。

私は1962年、カトリック信徒の家庭に生まれ育ち、幼児洗礼を受けています。所属はカトリック小平教会(東京都小平市)で、その教会には5歳年上の晴佐久昌英神父(カトリック浅草教会・上野教会主任司祭)もいました。幼稚園から大学までカトリック系の学校に通っています。

幼児洗礼を受けると、ある年齢までそのまま来てしまうのですが、どこかで自分の信仰に向き合う時期があります。私の場合は高校生の時で、ゼロから自分の信仰、キリスト者であることを見直しました。それで、もっとキリスト教的なことを深めてみたいと思い、上智大学文学部哲学科に入学しました。

イエズス会には、大学の卒業式の翌々日に入会しました。入会後、いろいろなことがありましたが、何が自分の道なのかと、その都度選びながら今に至っています。

──何が入会を決意させたのでしょうか。

修道院に入ることを「召し出し」と言いますが、召し出しは自分の力によるものではないと強く感じています。自分が抗(あらが)っても抗えるものではない強い力に呼ばれているということが唯一の拠(よ)りどころです。大学時代、青春を目いっぱい謳歌(おうか)していた私は、「司祭になるようなタイプではない」と自分も周りも思っていたので、やはりそういう「呼びかけ」というのは決定的だったと思います。

──その後、上智大学で教えられるようになったのですか。

私は約10年間の養成課程をへて、1995年に司祭に叙階されました。その間、上智大学神学部に編入学し、大学院神学研究科に進みます。ドイツ・フランクフルトにあるザンクト・ゲオルゲン哲学神学大学に留学し、神学博士を取得して、2004年4月から上智大学で教え始めました。

どういう分野に進むのかは、養成のプロセスの中で対話などをしながら決まっていきます。イエズス会日本管区の場合、大学、中高、教会が主な派遣先で、私は大学になりました。

SJハウスに隣接する聖堂(クルトゥルハイム)は、大学構内に現存する
唯一の明治期の建築物。

──神学部の特徴を教えてください。

上智大神学部は、教皇庁立神学部(Facultas ecclesiastica)と文科省認可学部という二つの顔を持っています。1956年に教皇庁認可、58年に、当時の文部省に認可されてスタートしました。そのため神学部は、文科省のみならず、カリキュラムや人事に関して教皇庁の管理下にあります。イエズス会は、高等教育や中等教育で世界中にネットワークがあり、その中でも上智大学は「Sophia University」としてよく知られています。

その後、神学部では大きな改組改編があって、文学部人間学研究室と神学部が統合され、2009年に新たな神学部がスタートしています。

──どのように変わったのですか。

神学部を設立した当初は、カトリック教会の聖職者の養成が目的でしたが、現在はキリスト教的価値観や倫理観、キリスト教的文化を学ぼうとするすべての人に門戸が開かれています。現在の1年生の在籍者数は、一般が40人、司祭課程が0人、修道女が0人です。しかし、司祭課程の学生は編入を主として、3、4年次から増えてきます。大学の神学部でありながら、いわゆる教派神学校という機能も持っていて、現在でも司祭養成課程の役割も担っているわけです。

──女子学生が多いですね。

1年生40人のうち、34人が女子学生です。かつてはほぼ全員が男性の神学生でした。その後、徐々に増えてきたのですが、2009年、定員を25人から40人に増やした時に女性の数がまたぐっと増えました。

──何か理由があるのでしょうか。

「上智ブランド」ということはあるだろうと思います。上智大学に入ることが目的で、その選択肢として神学部を選ぶ学生が一定数いるということです。大学ではいろいろな勉強ができますし、さまざまな課外活動にも参加できます。大学の中に神学部があることの恩恵は小さくないと思っています。

──卒業生の就職先も、一般企業などが多いですね。

その中でも特色があると思うのは、カトリック校の教員になる学生が一定数いることです。神学部で必要な単位を履修して卒業すると、宗教科教員免許を取得できます。同時に、宗教科の免許を基礎免許として、社会科教員免許(中学社会・高校公民)も取得できます。カトリックの学校で上智大学神学部を卒業した教師に学び、「自分もそういうふうになりたい」と思って入ってくる人がいるのです。教員免許を取るのはかなりたいへんなのですが、そういう志を持って入ってくる学生が一定数います。

──カトリックの司祭を育てる機関であると同時に、一般の人も学ぶ場ということで、一般の人たちへの教え方や接し方は変わりますか。

根本的に変わることはありません。ただ、学生のバックグラウンドはさまざまで、カトリック信徒はあまりいません。キリスト教を学びたい人が入学し、卒業する時にはいろいろな業種に散っていく。その中で、キリスト教の学びということを軸にし、そこで培(つちか)われた価値観を持って社会に旅立つという感じです。このことは、大学全体が目指していることでもあり、神学部は大学のユニバーシティー・アイデンティティーを担っている学部として、そういう役割も大学全体の中で期待されていると思います。(後編に続く)

 






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