集会

岩本潤一さん「聖書 聖書協会共同訳」を語る 東京YMCA午餐会

投稿日:2019年4月27日 更新日: -

 

東京YMCA午餐(ごさん)会が18日、東京大学YMCA(東京都文京区)で開催された。39人が参加し、日本聖書協会総務部主事の岩本潤一さんの講演「『聖書 聖書協会共同訳』──回顧と展望」に耳を傾けた。

岩本潤一さん=18日、東京大学YMCA(東京都文京区)で

岩本さんは1959年、神奈川県生まれ。上智大学大学院博士前期課程哲学研究科哲学専攻修了。真生会館聖書センター、上智大学中世思想研究所、カトリック中央協議会司教協議会秘書室研究企画勤務を経て現職。著書に『現代カトリシズムの公共性』(知泉書館)がある。

昨年12月に刊行された「聖書協会共同訳」の翻訳事業に岩本さんは準備段階から10年にわたって携わってきた。1987年に発行された「新共同訳」と同様、プロテスタントとカトリック共同で翻訳が行われた。

岩本さんが今回特筆すべき点として最初に挙げたのが女性委員の貢献。特に、五書・歴史書編集委員会の日本語担当の翻訳者兼編集委員として一人、詩書・預言書編集委員会にも二人いて、旧約の訳文作成に果たした女性の役割の大きさを伝えた。

また、「新共同訳」では意訳と直訳が混在するような訳文だったが、今回は「礼拝での朗読にふさわしい、格調高く美しい日本語訳を目指す」という編集方針が定められ、本文は原文に忠実でありつつ、日本語としても分かりやすい訳となった。

翻訳における日本語担当者の割合を大きくしたことや、翻訳プロセスで翻訳支援ソフト「パラテキスト」を使用したこと、訳文チェックの方法を工夫したことなど、翻訳作業が効率的に行われたことで、時間短縮が可能になった。その一方で、翻訳者が顔と顔を合わせて合宿を行い、祈り支え合いながら、心を一つにして翻訳事業に取り組んできたという。

講演後には質疑応答の時間も持たれ、新しい邦訳聖書について議論が交わされた。

聖書学の変化も、聖書翻訳に大きな影響を与えている。「新共同訳」の翻訳が行われた1970年代から80年代に主流だったのは、聖書テキストの資料批判。しかし今は、テキストの構造に注目が集まっているため、できるだけ訳語を原語と対応させることが必要になった。たとえばヘブライ語「ツァディク」が新共同訳では「神に従う人」、同根語の「ツェデカ」が「恵みの御業」と訳され、日本語だと全然関係のない言葉のようになっているが、今回はそれぞれ「正しき者」「義」と訳されたので、「ツァディク」と「ツェデカ」の意味がつながりやすくなった。

また、重要な訳語の変更にも触れられた。旧約におけるヘブライ語「ツァラアト」(新約では「レプラ」)は、新共同訳では「重い皮膚病」と訳されたが、今回は「規定の病」とした。また、「ピスティス・クリストゥ」は「キリストへの信仰」と「キリストの真実」の訳が可能で、翻訳作業が始まった時からの大きな課題だった。今回は、限定した部分(ローマ3:22、25、26、ガラテヤ2:16〜20、3:33〜26、エフェソ3:12、フィリピ3:9、2コリント1:18など)に限り、「キリストの真実」とした。ただし、「キリストへの信仰」の別訳が可能であることが欄外に注記されている。ただ今回、「キリストの真実」という訳語を採用したからといって「信仰義認」を否定するものではないと岩本さんは強調した。

最後は、次回の聖書翻訳への課題を語って締めくくった。

「今回の訳稿や委員会議事録はワードやエクセルで保存され、翻訳作業に使った『パラテキスト』には翻訳テキストの更新履歴が残されています。しかし、どちらも永久的な保存が保証されているわけではありません。未来の研究者のため、翻訳資料の遺産をいかに保存し、伝えていくか、真剣な検討が求められています」

午餐会では毎回、昼食を共にしながら交流を深めている。

東京YMCA午餐会は、1920年代から続く歴史ある会で、著名な講演者を招き、共に昼食を囲んで交流を楽しみながら、知見を広げることを目指してきた。次回は5月13日、キリスト教文学研究者で元活水学院院長の奥野政元(おくの・まさもと)さんが「山本周五郎とキリスト教」というテーマで講演する。

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