【連載小説】月の都(12)下田ひとみ

 

その後も白熱した議論が続いたが、役員会が始まって3時間が経った頃にようやく結論が出た。陶子を受け入れることに全員が一致したのである。

謙作と真沙子はこの時の役員会を「大吉(だいきち)ショック」と名づけて、後々まで夫婦の語りぐさとした。神学校で飼われていた犬の大吉と天宮が似ているので、二人がこっそりとつけたあだ名であった。

苦戦を強いられた謙作を、天宮は実によく助けた。謙作が溺(おぼ)れそうになると、真沙子も黙ってはいなかったが、ここぞという時に助け船を出して救ってくれたのはいつも天宮であった。

天宮は背をまっすぐに、反対者一人一人の眼を見つめ、諭すように繰り返した。

「教会はこの世の価値観や常識に基準を置いてはなりません。私たちの基準は聖書なのです。聖書が何を語っているかをまず一番に考え、聖書の言葉に基づいて判断するべきです」

全員一致で賛成という予想外の驚くべき結果に辿り着けたのは、このように天宮が一歩も退かず、反対者の一人一人に粘り強く説得を続けたからなのだった。

役員会を終えた夜――

謙作と真沙子は、子供が寝静まったアパートで、お茶を飲みながらしみじみと語り合った。

「いいとこあるわね、天宮長老も。『名倉先生がこんなに気骨のある方とは思わなかった』って、ケンちゃんを褒(ほ)めてたし」

「ぼくも驚いたよ」

「気難しくて、口うるさい、扱いにくいお爺(じい)さまって思ってたけど、改めなくちゃ」

「天宮長老のことをそんなふうに思ってたの?」

「だって、いつもネチネチとケンちゃんをいじめてたじゃない。祝祷の時の声が小さいとか、誕生日カードの『みことば選び』がなってないとか、牧師としての威厳が足りないとか、役員にペコペコしているとか。悔しかったわ。説教にコクがないって言われた時は、さすがの私もキレそうになったわよ。コクって何? 説教は料理じゃありません」

「みんな本当のことだよ」

「ケンちゃんったら、いつだってそんなふうなんだから」

「天宮長老はすばらしい信仰者だよ。うちの教会になくてはならない人だ。城島さんも、ほかの役員さんたちも……

真沙子は素直に頷(うなず)いた。

「そうね。このたびのことで、私、役員さんたちを誤解してたって反省したの。本気になって心を開けば、応えてもらえる。神様にあるなら、みんながひとつになれるんだわ」

「この教会に遣わされてよかった。心からそう思うよ」

「私も」

「新しい気持ちで一緒に教会に仕えていこう」

真沙子が満面の笑みで答えた。

「はい」(つづく)

月の都(13)

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