【連載小説】月の都(55)下田ひとみ

 

偲ぶ会を終えたその夜──。

名倉家ではいつもの光景が繰り広げられていた。

子供たちと風呂に入っている謙作。

そこに真沙子が希香(ききょう)を抱いていく。

「希香ちゃん、お父さんだよ」

「お兄ちゃんだよ」

「ぼくもおにいしゃんだよ」

真沙子は3人に睨(にら)みをきかせる。

「おもちゃじゃないんだから、取り合っちゃ駄目よ」

やがて「希香ちゃん、上がるよ!」という謙作の声で、タオルを広げた真沙子が迎えにいく。

希香の体を手早く拭くと、おしめをし、服を着せ、水分をやった後、母乳を飲ませる。

そのうち子供たちが風呂から上がってくる。

「おなかしゅいた」

「晩ごはん何?」

真沙子が「ハンバーグ」と答えると、「やった!」と二人の歓声が上がった。

夕食のあとは絵本の読み聞かせである。

この役割は謙作が引き受けていた。

「今夜は何にしようかな」

「おとーしゃん、これ読んで」

翔が持ってきたのは「かぐや姫」であった。

真沙子が図書館から借りたもので、読むのは初めてである。

「友樹もこれでいい?」

「うん」

「じゃあ、始めるよ」

子供たちは謙作の両側から絵本に見入った。

「昔、昔、あるところに……」

おじいさんが竹やぶに入っていくと、竹のひとつが光っていました。不思議に思って近づくと、竹の中に赤ちゃんがいました。

竹から生まれた女の子。

子供がいなかったおじいさんとおばあさんは大喜び。かぐや姫と名づけて、大切に育てました。

やがて、年ごろになったかぐや姫は、月を眺めて、ため息をつきます。

絵本に描かれたかぐや姫は、かぐわしい花のようだった。

「ふじさきしぇんしぇいに似てる」

翔がつぶやいた。

「本当だ。似てる」

友樹も小さく相づちを打っている。

──たしかに似ている。

謙作は胸が熱くなった。

憧れるように月を見つめている横顔。

懐かしさに月を見上げて涙を流している姿。

 

「──こうしてかぐや姫は、月に帰っていきました」

読み終わると、子供たちが口々に尋ねてきた。

「藤崎先生も月に帰っていったの?」

「ふじさきしぇんしぇいはお姫さまなの?」

謙作は友樹と翔を両腕に抱き寄せた。

「藤崎先生は月に帰ったんじゃなく、天国に行ったんだよ」

謙作の声は夢見る人のようだった。

「でも、先生はかぐや姫みたいに綺麗で優しかったから、もしかしたら月から来たお姫さまだったかもしれないね」

絵本の中のかぐや姫が、月の中でほほえんでいた。(つづく)

月の都(56)

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