【インタビュー】柳沢正史さん(後編) 科学の発見は「何とかなる」という信仰に支えられている

 

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構・機構長として、世界の睡眠研究をリードする柳沢正史(やなぎさわ・まさし)さん(58)。所属している日本バプテスト連盟・筑波バプテスト教会では、特技のフルートで賛美の奉仕もしている。後編は信仰の証しについて話を聞いた。

柳沢正史さん

──洗礼を受けられたのはいつですか。

大学院2年生の時です。

キリスト教については、高校生の頃から好きだったマーラーの合唱付き交響曲を通して興味を持ち、聖書をかじり読んだりはしていましたが、自分がクリスチャンになるなんて思ってもみませんでした。育った環境もキリスト教とは無縁で、親戚はかなり遠くまで入れてもクリスチャンはいないと思います。

ところが妻の母親がクリスチャンで、最初、「結婚式は教会式で挙げてほしい」と言われたのです。私は特に問題とは思わず、「はい、いいです」と引き受けました。そして、「司式は、自分たちが通う教会の牧師にしてもらいたい」ということになりました。義理の両親は日本福音ルーテル岡山教会の会員で、当時の牧師は市原正幸さんでした。市原牧師から「何回か教会に来てください」と言われ、岡山に行った時は必ず行くようにしていました。

市原牧師と出会って、知的な興味もあり、自分なりにキリスト教について調べ始め、聖書も読むようになりました。そんな中で、ルカの福音書が私を惹(ひ)きつけました。ルカを通して私は、2000年前のパレスチナに生きた一人の人間としてのイエスと出会ったのです。神としてのイエスと出会ったのはずっと後のことだったと思います。ルカは医師としての視点から、イエスが奇跡的な力で病を癒やし、社会的にも、最終的には霊的にも癒やしをもたらしたことを書き留めています。ハンセン病が治ったら「報告に行け」とか、「家族のもとに帰れ」とか。私は筑波大のきわめて実践的な医学教育を受けたので、イエスを医者として素晴らしい人だと思いました。病気だけ治せばいいというのではない、全人的な医療者です。ルカの福音書にはそれが繰り返し書いてあり、本格的に興味が湧いてきて、聖書をじっくりと読んでいきました。

妻は大学の1年後輩で、結婚する時点ではクリスチャンではなかったのですが、大叔母が熱心なクリスチャンで、その影響もあってか、つくば市にある教会に頻繁に行っていました。

結婚式が近づいてきたとき、義理の母が「二人まとめてクリスチャンになりなさい」と言い出し、市原牧師も「もう白旗あげたらええんや」という感じで洗礼を勧められ、婚約式を教会で挙げてもらった時に洗礼を受けました。結婚の1カ月前です。今から考えると、私は妻のように教会生活をしたことがなく、きちんとした信仰が与えられる前に洗礼を受けたことになります。

今、バプテスト教会に属していますが、バプテストとルーテルとでは神学的な違いがあると思います。ルーテルでは、信仰告白は「信じますか」「はい」の一言でいいんです。ルーテル教会で洗礼を受けたのは神様の導きとしか言いようがありません。あの時にクリスチャンになっていなかったら、一生クリスチャンにはならなかったかもしれないので、非常に大きな神様の計画だったと思います。市原牧師はこういうことをすでに見て取っていたのでしょう。

──柳沢さんにとって科学とキリスト教はどういう関係にあるのでしょうか。

「世界が造られたときから、目に見えない神の性質、つまり神の永遠の力と神性は被造物に現れており、これを通して神を知ることができます」(ローマ1:20)という聖句を多くの科学者が引用します。

人間には、神のわざを少しずつ読み取っていく能力が与えられていて、それをやるためにいちばんパワフルな手法が科学なのです。創造主たる神が造られた被造物のメカニズムを、限界のある人間の力で少しでも読み取っていくことが科学の本来の役割だと思っています。

──座右の銘とされている「真実は仮説より奇なり」について教えてください。

仮説とは、人間が小さな頭で考えたストーリーであり、真実は、神が創った摂理。我々が考えていることよりはるかに大きく「奇」。これは自分が経験してきたことそのままの感想です。たとえば、オレキシン欠乏のマウスが睡眠障害になるなどということは私にとっては思ってもみなかった事実でした。一方、これは自戒の句でもあります。自分の仮説を目の前のデータ(事実)よりも上に置いてしまうと、それは研究不正にまでは至らなくとも、信頼性の低い「いいところ取り」の研究姿勢へとつながってしまうからです。

しかし、決して仮説を軽んじているわけではありません。仮説こそは科学のゴールであり、完成度の高い仮説は「理論」と呼ばれるようになります。

ただ、科学的な仮説や理論はどこまでも一時的なものです。明日もしかしたらその理論は書き換わっているかもしれない。たとえば、アインシュタインの相対性理論が出てきた段階でニュートン力学が崩れました。生物学でも、それまでのドグマが新しい発見でどんどん書き換えられています。その繰り返しです。そこがまた科学のパワフルなところでもあるのですが……。

「絶対的な真実は存在しない」と言う科学者もいますが、私は科学的実在論者ですので、やはり真実はあると思います。科学的な真実というのは、神の創った摂理なのです。最終的には創造者の性質が現れるところの被造物を見ているわけですから、そこを大事にしなければいけないと考えています。

──新しい発見をされるのはどのような感じですか。

科学の発見は、瞬間的に起こるわけではありません。何か見つかっても、それがどういうものか分かるまでに、下手すれば1年くらいかかります。いろいろな思いつきが重なってアイデアというレベルに成熟していくのであって、たとえばリアルタイムに「聖霊が降りてきた」と感じるチャンスはほとんどないですね。

でも、後から考えると、「そういう導きだったのか」と考えることはいくらでもあります。そもそもクリスチャンになったこと自体がそうですから。

──生きていく上で、何か気をつけていることはありますか。

話す相手によって態度を変えないことです。これは人間としての指標で、若い学生に対しても、学長でも、総理大臣でも、態度は変えない。上に媚(こ)びることや、下に高圧的な態度をとることはしたくありません。

そういうことを誠実に正しくやれば、「何とかなる」と開き直れます。クリスチャンであることでいいなと思うのは、最終的に開き直れることです。「何とかなるよ」という、守られている感じがすごくあるのです。そういう意味で信仰に支えられていると確かに思います。

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