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NHK連続テレビ小説「エール」のキリスト教考証(2)関内家と双浦環裏話 西原廉太(立教大学文学部長、立教学院副院長、キリスト教学校教育同盟理事長)

投稿日:2020年4月25日 更新日: -

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NHK連続テレビ小説「エール」(月~土、午前8時、総合ほか)の第2週では、主人公の古山裕一(こやま・ゆういち)と結婚する関内音(せきうち・おと)の少女時代が描かれました。

関内家は熱心なクリスチャンの信徒家庭、しかも聖公会の信徒という設定です(実際の内山家はそうではありません)。そのため、NHK渋谷スタジオに作られた関内家のセットには、映像では確認しにくいですが、さまざまなキリスト教・聖公会アイテムが存在していました。

7日放送の第7回では、朝食前にお父さんの安隆(やすたか)が、「主よ、この食卓を祝し給え。アーメン」と十字を切りながら唱える「食前の感謝(祈り)」の場面があります。最初、キリスト教考証の私は、「主、願わくは我らを祝し、また主の御恵(おんめぐ)みによりて我らの食せんとするこの賜物(たまもの)を祝し給(たま)え。我らの主、イエス・キリストによりてこい願い奉(たてまつ)る。アーメン」という大正期の文語体の祈りを提案しましたが、さすがに長いということで短縮バージョンとなりました。

収録の際には、安隆役の光石研(みついし・けん)さんや母の光子役の薬師丸(やくしまる)ひろ子さん、長女の吟役の本間叶愛(ほんま・といと)さん、次女の音役の清水香帆(しみず・かほ)さん、三女の梅役の新津(にいつ)ちせさんに、十字の切り方やアーメンの唱え方などを演技指導させていただきました。子役の子たちには「アーメンの語尾をあまり下げると『ラーメン』になっちゃうよ」などと冗談を言って楽しい収録でした。

京都聖ヨハネ教会

また同回の最後で、音が教会で琴の演奏を披露する予定だったのを思い出し、父の安隆と一緒に教会に駆け込んだところ、そこで柴咲コウさん演じるオペラ歌手・双浦環(ふたうら・たまき)に出会います。そのモデルは、「蝶々夫人」などで世界的に活躍した三浦環(みうら・たまき)です。そして、この豊橋の教会のシーンは、現在、明治村に移築された日本聖公会の京都聖ヨハネ教会でロケが行われました。

当初、環が歌うのは「夜の女王のアリア」が想定されていました。しかし私から、その歌詞が復讐や呪いであること、またフリーメーソンやグノーシスといった正統キリスト教とは正面から対立する異端的なモチーフであることから、この曲が教会で歌われることはまずないと申し上げました。その上で、「アヴェ・マリア」か、オペラであれば「ジャンニ・スキッキ」の「私のお父さん」、「蝶々夫人」の「ある晴れた日に」、サン・サーンスの「サムソンとデリラ」などが良いのではと提案させていただいたところ、実際の映像では「私のお父さん」が歌われました。

放映直後、NHKに視聴者の方からこのような意見が寄せられました。

カトリックとプロテスタントが混同されているように思います。教会堂の形はカトリックですが、内部はプロテスタントです。歌われている聖歌(讃美歌)はプロテスタントのもの、食前の祈りの場面で、お父さんが十字を切りますが、これはカトリックです。ここまでは時代によって違いがあるかもしれませんが、聖歌隊が歌い終わったときに会衆が拍手することは、カトリックでもプロテスタントでも絶対にありえません。

それに対して私から以下のように回答させていただきました。

ご指摘いただきましたキリスト教の場面ですが、関内家は、聖公会(英国国教会系)のクリスチャンという設定です。聖公会はローマ教皇の教導権から16世紀英国宗教改革によって独立したという点ではプロテスタントですが、聖堂建築や礼拝式、聖職信徒の所作等はカトリックの伝統を保持しています。

また、聖歌隊が歌い終わって拍手する場面ですが、注意してご覧いただければ分かりますが、これは「礼拝」ではなく、あくまでも教会を会場にした聖歌隊によるチャリティー奉唱会という設定です。実際、当時のミッション・スクールの聖歌隊は、各地の教会等を訪問してコンサートを開催しています。これは信徒のためだけではなく、広く地域住民に開かれるものであり、演目も、聖歌のみならず、文部省唱歌的な歌など、一般の人々にも馴染(なじ)みのある曲を積極的に歌いました。聖歌も「きよしこの夜」など有名な曲がよく歌われていました。聖歌隊の演奏後、通常のコンサートのように、一般市民も含めた聴衆から大きな拍手を受けることがありました。

このように熱心な視聴者がおられることは感謝です。考証というのは、こうしたアフターフォローもしっかりしなければならないのだと改めて自覚させられた次第です。

このドラマの中で私がいちばん気に入っているのは、父親の安隆が音を励ます場面でのこの言葉です。

「人にはみんな役割がある。誰もが主役をやれるわけじゃない。だけど、主役だけでもお芝居はできん。必ずそれを支える人がいるんだ」

この言葉にこそ、私たちが最も伝えたいメッセージが込められているように思うのです。(に続く)

西原廉太(にしはら・れんた) 1962年、京都府生まれ。87年、京都大学工学部金属工学科卒業、91年まで日本聖公会中部教区名古屋学生センター主事、94年、聖公会神学院神学部卒業、95年、立教大学大学院文学研究科組織神学専攻修士課程修了、日本聖公会執事、98年、立教大学文学部キリスト教学科専任講師、2000年、助教授、07年、教授。博士(神学・関西学院大学)。専門はアングリカニズム(英国宗教改革神学)、エキュメニカル神学。日本聖公会中部教区司祭、世界教会協議会(WCC)中央委員を務める。

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